終戦の夏、今年も各局で戦争を題材にした番組が放送された。ロングラン上映を続けるアニメ映画「この世界の片隅に」(片渕須直監督)の影響か、当時を生きた“庶民の目線”にフォーカスした番組が複数作られ、胸に迫る見ごたえがあった。

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 悲惨さだけではない戦争体験の数々に目からうろこだったのは、8月1日に放送されたNHK「クローズアップ現代+」の「#あちこちのすずさん~庶民が綴った戦争の記録~」。「この世界の片隅に」の片渕監督をゲストに、主人公すずが体験した恋やおしゃれや食べ物のような、暮らしの中の戦争証言が紹介された。

 スイカ1個に「山の土地」という望外な値段をふっかけられたにもかかわらず、子供たちのために買ってしまった女性。「私のばか」という自虐ワードがとても身近で、「戦地にいるお父ちゃんに申し訳ない」という展開に見入った。

 犬に召集令状があったという話も初めて聞いた。犬をイモで育てる描写から、当時の食料事情がよく分かる。家族で育てた軍用犬がいよいよ出征となり、「工面して牛肉と赤飯を食べさせた」「整列した犬の中でいちばん立派に見えた」。家族である動物への“親心”が普遍であるだけに、「戦地へ送られ、帰ってこなかった」という結末を考えさせられた。

 特集は2回にわたって放送された。「空襲の炎が美しい」という極限状態の証言や、「空襲で焼けた実家に戻ったら、水を張っていた米が炊けていた」「持ち出し禁止のパンを持って帰れるので空襲さまさま」「学徒動員で部品を作りつつ、私たちが作る飛行機が飛ぶわけないと思っていた」など、生身の証言はどれも意外で、たくましい。

 番組には2000を超える「#あちこちのすずさん」の証言が寄せられたという。片渕監督が選んだエピソードは「ばーちゃんと婚約して軍需工場に来たじーちゃんが鉄くず盗んでばーちゃんに指輪作って持ち帰った」という若者からの投稿。監督は「鉄くずが兵器にならず結婚指輪になった。じーちゃんばーちゃんも青春真っただ中だったと教えてくれるエピソードだった」。スタジオには笑いも起きたし、監督の雰囲気もほっこり。従来の戦争番組とは違うとっつきやすさがあり、切り口のひとつとして意義を感じた。

 11日にNHKBSプレミアムで放送された「ドラマ×マンガ“戦争めし”」は、「食」から戦争にアプローチした快作だった。「食べることは生きること。それは戦争の真っただ中でも同じ」。マンガ家、魚乃目三太さんの原作をベースにしたオリジナルドラマで、こちらもも庶民の証言あってこその作品だった。

 日本兵とオランダ人捕虜の心をつないだにぎり飯や、東京大空襲でうなぎのタレを守ったおかみなど、取材で得た戦争めしエピソードはさまざま。にがり(塩化マグネシウム)をめぐるゼロ戦と豆腐の関係や、船のソナー作りのために海軍が命じたワイン作りなど、知らない話が次々と登場し、当時の経済事情や人々の思いが新鮮。インパール作戦から生還した元兵士が、戦死した友と交わしたおでんの約束は、血の通った力作だったと思う。

 主人公のマンガ家(駿河太郎)が「自分が書いているのはその人の戦争体験の一部でしかない」と途方に暮れる場面は、戦争を知らないほとんどの日本人の立ち位置そのもの。「興味がある部分でいいから、戦争について考えてみることだ」という編集者(壇蜜)のせりふが胸に染みた。

 TBS日曜劇場では、「この世界の片隅に」の実写ドラマが放送中。過酷な時代を、マイペースに力強く生きるすずの暮らしを松本穂香が好演している。

 徹底取材で戦争の真実を掘り起こす骨太ドキュメンタリーや、平和の尊さを訴える本格戦争ドラマは今後も不可欠だけれど、庶民の暮らしから戦争のリアルを共有することで、地続きの時代がぐっと身近になる。あの時代を生きた人の数だけ真実はあるわけで、庶民アプローチへの取り組みは今後も広がってほしい。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)