TBSラジオ三村孝成社長が11月28日の定例会見で、聴取率の調査期間に行っている「スペシャルウィーク」をやめ、今後は特別な編成やプレゼント企画を行わないと発表した。長く業界が争ってきた聴取率からの脱皮宣言だ。17年連続首位、V100を達成したリーディングカンパニーの決断は、低迷するラジオ業界にどう影響するだろうか。

**********

ビデオリサーチによる首都圏ラジオ聴取率調査は、2カ月に1度、1週間ずつ行われ、翌月に発表されている。この期間はスペシャルウィークとして各局が豪華プレゼントや豪華ゲストを用意し、お得感の過当競争を呈しているのが現状だ。中には露骨すぎてリスナーから「通常放送の方がいい」と煙たがられるケースもある。必ずしも媒体価値の向上につながっていない現状に歯止めをかけようとしたのが、今回の三村社長の「スペシャルウィークやめます」発言だ。

背景には、聴取率目当てでどれだけプレゼント攻撃を仕掛けようと、ラジオ業界に勢いが出ない現状がある。業界全体の放送収入は25年間下がり続け、SIT(セッツインユース=放送を受信しているラジオの割合)は史上最低の5・2%。対象受信機が100あれば、95人は聴いていないということで、景品作戦は効果がなさげなのだ。

代わりに三村社長が番組作りの参照データとして注視するよう社内に通達したのが「ラジコ」のデータ。パソコンやスマホで無料でラジオを聴けるサービスとして9年前に登場し、すっかり聴取スタイルとして定着している。24時間365日、リアルタイムでリスナーの数と動きを知ることができる。現場ではとっくにラジコのログをチェックしながらの番組制作が進んでおり、あらためてここに一本化しようという話だ。

三村社長は「年52週のうち、6週間しか調査されないデータを金科玉条のように気にするのはナンセンス」。大事なのは新規リスナーの獲得とし「プレゼントをするにしても、わざわざ調査週にやるのではなく、引っ越しや入社の春など、最適なタイミングについて個々の番組がアイデアを絞るべき」。同じようなことは、ライバル局も感じているようだという。

今年最後の定例会見で他局に先駆けて方針を打ち出したことについては「V100を達成し、1位の時にやる方がいいかなと思った」と明快だ。方針はあくまでも制作現場に向けた話で、広告・営業上の議論はこれから。「今後の聴取率調査のあり方について、ラジオ業界全体で考えていきたい」という。

とはいえ、TBSラジオの「17年4カ月首位」「V100」はいずれも聴取率の称号。ここに限っては聴取率に胸を張るというのも矛盾を感じる。と思ったら三村社長の腹はとっくに決まっていて「だからね、これからはもう言いません」とあっさり。トップの意志が明確で、現場もやりやすそうだ。とりあえず“脱スペシャルウィーク”の挑戦は、10日から始まる12月期調査からスタートする。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)