映画「もののけ姫」の主題歌で知られる世界的カウンターテナー歌手の米良美一(43)が、昨年12月にクモ膜下出血で倒れていた。生死の境をさまよっていたが、2度の手術を乗り切り、一命を取り留めた。全快には時間を要するが、このほどリハビリ先の宮崎県内の実家で日刊スポーツの取材に応じ、再起を誓った。

 米良は昨年12月8日正午すぎ、意識不明の状態でマネジャーに発見された。都内の自宅廊下だった。前夜、鹿児島で講演会を終えて帰京。部屋着姿で、トイレと廊下で嘔吐(おうと)し、拭いた跡が見られた。ただちに都内の病院に救急車で運ばれた。医師の診断は「左部分のクモ膜下出血」。緊急手術を受けた。

 術後も意識混濁が続き、医師からは「5段階で、最悪だけは免れたステージ4。発見が遅れていたら死んでいた。命が助かるかどうか。復帰どころではない」と告げられた。実家から駆け付けた母京子さんは、自身もクモ膜下出血で倒れた経験があり、「東京で息子を骨にして帰らなければいけないのかと思いました」と振り返った。

 意識が戻らないまま新年を迎えたが、水がたまって脳を圧迫する「水頭症」の後遺症を取り除くため、管を挿入して水を抜く「シャント挿入手術」を1月8日に受けた。手探りで勘に頼る部分も多く、医師は「芸術家の脳はリスキー」と判断に迷ったが、母京子さんが決断して「やってください」と依頼した。米良自身は「それで、やっと魂が入った感じ」と言った。

 同19日に宮崎市内の病院に転院。2カ月以上入院し、リハビリを経て、先月25日に退院して実家に戻った。「頭が痛いとか、前兆は全くなかった。母と祖母がクモ膜下で倒れているから、家系なんでしょう。12月7日に東京に帰ってきて、その後のことは全く覚えていない。宮崎に戻ってからのことだけ覚えている」。宮崎の病院では、最初にまひのチェック、手足が動くかを調べた。「言葉も相変わらずおしゃべりだし、顔面まひもなかった。当初は右側の機能が少し落ちていたけど、それも体を動かすうちに治った」。

 現在は実家で歩くリハビリを続けている。幼いころに先天性骨形成不全症を患っており、「普通の体じゃないから大変。何カ月も寝ていたから、歩く筋肉が全部落ちちゃっている」。それでも、「のどは大丈夫だった。心配だったんで、1度、病院で歌ったら声が出た。また、自分の歌で皆さんに元気になってもらえれば。秋にはステージに立ちたい」と笑顔で再起を誓った。【小谷野俊哉】

 ◆米良美一(めら・よしかず)1971年(昭46)5月21日、宮崎県西都市生まれ。幼少期より先天性骨形成不全症を患う。94年3月洗足学園音楽大を首席で卒業し、バッハ・コレギウム・ジャパン定期公演で「教会カンタータ」を披露。96年にオランダ政府給費留学生としてアムステルダム音楽学院に入学。97年に映画「もののけ姫」主題歌を担当。98年12月、日本アカデミー賞協会特別賞の主題歌賞受賞。15年の映画「マンゴーと赤い車椅子」の主題歌「Truth」を担当。家族は父信八さん(77)と母京子さん(76)。

 ◆クモ膜下出血 脳を覆う外側から硬膜、クモ膜、軟膜のうち、クモ膜と軟膜の間のクモ膜下腔に出血が生じて、脳脊髄液の中に混入した状態。脳動脈瘤(りゅう)の破裂や頭部外傷などによって起きる。ハンマーで殴られたような強烈な頭痛や嘔吐、血圧上昇などの症状が見られる。頭蓋の内圧が高くなり、十分な血流を脳に送ることが出来なくなり、脳の機能を損なうことがある。