歌手土屋アンナ(31)が9日、東京地裁で開かれた、主演舞台を降板したことで舞台プロデューサー甲斐智陽氏(64)から損害賠償を求められた件と、中傷する歌を作ったとして同氏を名誉毀損(きそん)で訴えた件の合同審理に初出廷した。声を詰まらせ涙で絶句する一幕もあったが、甲斐氏の口調をまねて「言えるわけねえじゃない」と証言するなど、余裕も見せた初“法廷対決”となった。結審し判決は来年1月25日。

 13年8月の提訴後、初めて法廷に現れた土屋は、潔白を強調するように上着もパンツも白だった。この日の審理には土屋、事務所社長の母土屋真弓氏、甲斐氏が証人として出廷し、法廷で初対決した。

 午後1時半から始まった証人尋問で、土屋は午後4時前に証言台に立ち、甲斐氏への不信をあらわにした。土屋は舞台の原作と説明された、障害のある歌手浜田朝美氏の著書を読んで主演を承諾したが、7月の初稽古で、原作とは違う主役が倒れるラストに「悲しくないですか」と迫ると、甲斐氏は「これだから感動する」とはねつけたという。舞台中止の理由として、稽古の無断欠席を挙げられたことに「台本を読んで、役作りもした」と反論した。

 さらに出演者たちが集まって話し合った際、浜田氏に舞台化の承諾を得ず、台本も見せていないことに土屋が反発すると、甲斐氏に「このやくざ女が。人の話も聞けないし態度が悪いな」と罵倒されたという。また、その時の浜田氏に対する甲斐氏の発言を、「(浜田氏に)言えるわけねえじゃない。頭はいかれているし、言葉もろくにしゃべれねえし」と甲斐氏の口調をまねて証言した。

 一方、甲斐氏が作った曲「ANNA」の「男あさりのエブリナイト」「ドラッグづけのデイ・アフター・ナイト」という歌詞については「私たちは人を感動させるのが仕事。私は薬物も、男あさりもしていないけれど、そういう人と思われてしまう。悲しくて残念です。家族やファンもいて、悲しくなるのでやめてほしい」と涙で言葉をつまらせた。

 最後に甲斐氏が手を挙げて自ら質問に立ち、「製作発表で浜田氏の承諾を得ていると言ったのに、どうして僕らの話を信じないのか」と迫り、土屋とにらみ合った。初の法廷直接対決だったが、時間切れで尻すぼみに終わった。土屋は相手側弁護士の質問にも何回も聞き返して慎重に答えた。最後に「ありがとうございます」と頭を下げ、1時間近い尋問を乗り切った。【林尚之】

<アンナvs甲斐氏経過>

 ▼13年7月 舞台「誓い~奇跡のシンガー」が上演中止に。制作の甲斐氏側が土屋の稽古無断欠席が理由と説明。土屋側は事実無根、甲斐氏は原案の浜田朝美氏に舞台化の許可を得ていなかったと反論。

 ▼同8月 甲斐氏が土屋と所属事務所に約3000万円の損害賠償を求め、東京地裁に提訴。

 ▼同10月 東京地裁で第1回口頭弁論。

 ▼14年3月 裁判長が和解勧告、非公開協議に。

 ▼同12月 土屋側が200万円を払う和解案を提示。甲斐氏側が拒否。次回から公開に。

 ▼15年4月 甲斐氏が作り一時YouTubeに投稿した曲「ANNA」の「ANNAはどうしようもない女」と歌う内容は名誉毀損していると、土屋側が甲斐氏に約1000万円の損害賠償を求め提訴したことが明らかに。舞台降板訴訟と合同審理に。