塚本晋也監督(55)が21日、都内で開催中の第25回多摩映画祭で行われた、第7回TAMA映画賞授賞式で特別賞を受賞した。

 作家大岡昇平氏の戦争文学を映画化した「野火」に対して贈られた。高い志と使命感で映画を製作し、戦争とは何かを新しい形で後世に伝えたことが評価されての受賞に、塚本監督は「キャスト幾人か以外はボランティア。企画に共感したキャスト、スタッフで作られた映画。非常に映画にとって名誉。もっともうれしく思う」と壇上で熱く語った。

 塚本監督は、作品の成立過程と、作る中での思いをあらためて説明した。

 「初めて原作に出会ったのが40年前。何十年か前から映画を作りたかった。当時、戦争は触ってはいけないものだった。巨匠と呼ばれるようになってから、フィリピンに尊敬する俳優を連れて行って大作を作ろうと思ったが、巨匠にもなれず、金もなかった。でも、時代が大きく変わっているのに誰も動こうとしない。今の風潮が危険に感じて、今、作らないとチャンスがない、見てくれないと感じて作った」

 父の遺産もつぎ込み、自主製作映画として製作し、自ら主演した。鬼気迫る演技について聞かれると「どうでもいい…すみません、という感じ。撮影を始める時、お金がなくて1人でフィリピンに小さいカメラを持って行って“自撮り映画”にしようとコンテも描いていた。交通費も1人分で済む、という感じでした」と苦笑した。

 そうして苦労して作り上げた映画が、昨年のベネチア映画祭コンペティション部門に出品された。戦後70年の今年7月25日に公開されると、全国各地で話題を呼び、6万人もの観客を動員し、現在も各地でアンコール上映が続いている。その要因について「若い人が今の時代に疑問の声を上げて見てくれたのかな」と分析した。その上で「スタッフの自分、キャストの自分じゃなく、何十年の野火(への気持ち)の固まりをぶつけた」と作品への執念をあらためて吐露した。

 塚本監督は最後に、俳優として出演した、米のマーティン・スコセッシ監督が、遠藤周作氏原作の歴史小説「沈黙」を映画化した新作「Silence(原題)」について言及。「1番尊敬する、スコセッシ監督が映画に出してくださった。来年、公開されると思うので、ぜひ」とアピールした。