【ロンドン21日=鈴木雅子通信員】米シンガー・ソングライターのボブ・ディラン(75)が、自身の公式サイトを通じ、ノーベル文学賞受賞を受け入れることを表明したと、英紙ガーディアン、デーリーメールなどが報じた。しかし、その後、サイト上から同賞に関する文言が削除されるなどなぞが深まっている。

 同サイト内で、叙情詩の新著「ザ・リリックス:1961-2012」をPRするページの上部に「WINNER OF THE NOBEL PRIZE IN LITERATURE(ノーベル文学賞受賞者)」と、すべて大文字の見出しが一時的に掲載された。この見出しをもとに英各紙が「ディランはやっと受賞者だと認める」と報じた。ガーディアン紙は「(13日の受賞から)5日たって認める」としており、見出しは18日ごろアップされた可能性がある。

 しかし、公式サイトから21日までにその見出しが削除された。同紙も21日、その見出しが削除されたと続報した。ディラン側の意図や真相は不明だが、文学賞を選考するスウェーデン・アカデミーがあるスウェーデンの日刊紙スベンスカ・ダグブラデットは21日、削除について「ディランからの要請だった」と報じた。

 ディランは13日に受賞が発表されてから、沈黙を貫いてきた。スウェーデン・アカデミーは再三、ディランや関係者に電話やメールによる受賞連絡をしていると説明したが、本人から明確な回答は得られないままで、混乱が起きていた。

 ディランが態度を保留する理由については「シャイだから」「無関心だから」「礼儀知らずなだけ」などと諸説飛び交っていた。同賞は64年に仏哲学者サルトルが受賞を辞退したことがあり、ディランも追随する可能性が指摘されていた。これに対し同アカデミーのダニウス事務局長は「(授賞式欠席を)まったく心配していない」と、12月10日にストックホルムで行われる授賞式にディランが出席することに自信を見せている。ディランは多くを語らず、詩で表現するタイプのアーティストでもあるだけに、真意についてさらに、さまざまな臆測が広がっている。

<ディランの受賞発表とその後の経緯>

 ◆13日 スウェーデン・アカデミーが、ノーベル文学賞をディランに授与すると発表。同日、ディランは米ラスベガスでコンサートを行ったが、受賞について一言も語らなかった。

 ◆14日 同アカデミーが、発表から1日たってもディランに受賞の連絡をつけることができていないと発表。選考委員の1人は「これほど長く(受賞者が)沈黙したことはない」と驚く。

 ◆17日 同アカデミーのダニウス事務局長は「彼を探そうと試みたが、今は連絡を取ることをやめた」と発表。