2016年は映画の当たり年だった。特に50億円を超える大ヒット作が続出した印象だ。昨年末公開の「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」は年が明けても動員をキープ、116億円と大台を突破し、華々しくスタート。その後も、7月に公開された「シン・ゴジラ」も80億円を超えた。

 中でも社会現象化したのは、8月公開のアニメ映画「君の名は。」だ。動員1600万人超え、興行収入は何と210億円を突破する歴史的なヒットで、16年度の日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞では新海誠監督が監督賞を受賞した。東宝の配給作品ながら、12月28日に行われた授賞式では、東映の多田憲之社長も「スーパーメガヒットで、まさにジャパニーズ・ドリーム。映画を作る者に、チャレンジする勇気を与えてくれた」と称賛するほどだった。

 新海監督は「秒速5センチメートル」「言の葉の庭」などで世界中にファンが多く、どちらかというと海外で評価されてきたアニメーション監督だ。それが、今作では既に国内3つの映画賞で賞を獲得した。壇上にはノーネクタイ、ジャケット姿で上がった。スニーカーも新調したものではなく、履き慣らしたものだった。これからも作品作りは変わらないという意思表示のようにも思えた。授賞式について聞かれると、「こういう場は苦手ですねえ…」と困ったような表情を浮かべた。根っからの現場職人だ。

 終演後は関係者が大挙して写真撮影に訪れるなど、俳優陣並みの人気だった。ごあいさつに多忙な中で、少しだけ話を聞いた。身の丈に合わない話をしない性格だが、「100億、200億なんて作品は、ディズニーやハリウッドといったところしかできないと、みんな思っていた。それが、僕たちのようなところができた。『あそこにできたんなら、うちだって』と思うクリエーターが出てきてくれれば」と少しだけ胸を張った。

 監督の次回作は、早くても19年。受賞や海外での公開ラッシュで、「企画書もまだですね」という。「来年1年は、露出がなくなると思います。深くに潜ります」。新海監督ならぬ「深海」監督になって、本来のクリエーターに戻る。