石原プロ「次世代スター発掘オーディション」グランプリの神田穣(21)が奮闘中だ。俳優デビュー作となるNHKBSプレミアム「クロスロード ~声なきに聞き形なきに見よ~」(5月28日スタート、日曜午後10時)の収録が横浜市内で行われ、石原プロの先輩で同ドラマ主演の舘ひろし(66)と初めて現場を共にした。

 新人刑事とベテラン刑事が、ホテルの一室に踏み込む場面。神田は直前まで、小道具の警察手帳を手に記念撮影する余裕を見せていたが、舘が現場に入ると一気に緊張の面持ちに変化。特別な会話がないまま収録は静かに始まった。カメラ位置は、廊下、ドアの前、室内と次々変わった。

 実は神田は、台本に「!」「…」と記された芝居の表現に苦戦していた。グランプリ獲得後、演技レッスンは積んできたが、いくら懸命に演じてもOKは簡単に出ない。モニターで確認すると「舘さんと立ち姿に差がありすぎる。自分は、ただ立っているだけだ」。自然にたたずむ舘の存在感に圧倒され驚いた。

 舘は普段、後輩への演技のアドバイスを好まない。神田のデビューが決まった時も「自由にやればいい」とだけ言った。この日は違った。神田に向かって「表情を作りすぎるな」「刑事の気持ちになれ」「段取りを気にしすぎるな」と声を掛け続けた。自分だけの出番の際には「ジュニア、見て勉強しておきなさい」と愛称で神田を呼び寄せ、手本を示した。

 舘は収録が一段落すると「俺よりうまいよ」と冗談めかして言って現場をなごませたが、本音は厳しかった。「若いうちは格好付けることに腐心するけど、それはしないでほしい。テクニックよりも感性。感性を磨けば自然な芝居ができる」。自分の経験も踏まえ、期待を寄せる後輩を温かくも厳しいまなざしで見つめていた。神田は胸を借りての現場に「日々勉強です。少しずつ成長していきたい」。舘の背中がひときわ大きく見えた。【小林千穂】

 ◆「クロスロード ~声なきに聞き形なきに見よ~」 尾関辰郎刑事(舘ひろし)とジャーナリスト・板垣公平(神田正輝)が、さまざまな事件に挑むシリーズの第2弾。河川敷で女性の死体が発見されたことから始まる。尾関と板垣が再会し、新人刑事の田中啓介(神田穣)も加わる。共演は、栗山千明、高島礼子、中村玉緒、竹中直人、勝野洋、平泉成ら。