フジテレビの亀山千広社長(60)の退任が決まった。後任には宮内正喜BSフジ社長(73)が就任する。昨年秋からの懸案事項が片付いて、担当記者としてホッと一息なのだが、これからも新しい人事や編成など、取材することはたくさんある。

 思えば、亀山社長の退任へのカウントダウンは2年前から始まっていた。15年6月に、営業畑を歩いてきた当時の稲木甲二常務が編成担当の専務に昇格した時だ。この時に宮内氏は、岡山放送社長からBSフジ社長に就任した。

 フジテレビに詳しい大先輩から「稲木さんが編成担当ということは、亀山社長が自ら編成を行うということ。成功すればいいけど、結果が出なければ早期の交代もありうる。宮内さんのBS社長就任は、そうなった時の緊急登板含みだ」とアドバイスをもらった。

 13年6月に亀山社長体制になってから、14年3月に「笑っていいとも」、16年3月に「ごきげんよう」と長寿番組を終了。番組編成を構造改革して、低迷する視聴率のアップを図ったが結果が出なかった。16年の4月改編では「めざましテレビ」から「みんなのニュース」まで、平日15時間の生放送を大々的にぶち上げた。だが、半年後の10月改編で午後4時台にドラマ再放送枠の「メディアミックスα」を設けて“ライブ”のかけ声はどこかへ行ってしまった。

 ドラマも迷走している。ひと桁台が当たり前で、ふた桁になれば御の字というありさまだ。この4月で30周年を迎えた月曜9時台の「月9(げっく)」の打ち切りまでささやかれてるのはびっくり。「東京ラブストーリー」「101回目のプロポーズ」「逢いたい時にあなたはいない…」「ひとつ屋根の下」「あすなろ白書」を現場で取材した身にとっては寂しいばかりだ。

 15、16年の年間視聴率では、ゴールデンタイム(午後7時~10時)とプライムタイム(午後7~11時)でTBSに抜かれて民放4位に転落。広告収入も激減した。

 昨年の6月には宮内氏が、フジテレビの取締役に就任。昨年の10月改編、今年の4月改編の正否に注目していたが、年明けからきな臭くなってきた。

 3月に中旬に週刊誌が「亀山社長退任説」を掲載。同31日の定例社長会見で、亀山社長に退任説の質問をぶつけると「全く、考えていない」と続投意欲満々だった。「これは、時機を見て日枝会長を直撃するしかない」。そう思っていたら、4月7日に谷村新司の45周年記念コンサートの会場で日枝会長とバッタリ。「社長問題が騒がれてますが」と聞くと、「まだまだ、早いよ」と笑っていた。否定ではなく、早いとの答えに「退任あり」の感触をつかんだ。

 フジサンケイグループの人事は、昔からゴールデンウイーク明けに流れる。5月11日にフジ・メディア・ホールディングスの決算発表が予定されていたので8、9、10日の3日間が勝負どころとめどをつけた。今から思えば、4月28日の定例会見での亀山社長は退任の引導を渡されていたようにしか思えない。げっそりとやつれ、いつもは1時間フルに質問に答えるのに20分間で終わってしまった。4月改編について「ドラマも1週、2週と好調なスタートを切って」と感想を述べたところから、ひと桁連発なのにと違和感たっぷり。移動してきたばかりの記者が「ドラマについて」と質問を切り出すと「さっき、話したとおりです」と木で鼻をくくったような対応でシャットアウトした。

 ゴールデンウイークが明けて、9日の昼前に「今日役員が集められて、発表される」の情報があった。「遠藤専務は変わらず。亀山社長続投か、BSフジ宮内正喜社長の就任の2つに1つ」二者択一の裏取りをすすめる中で、畑違いの音楽畑から「宮内新社長間違いなし」の情報がもたらされた。翌日の新聞まで待てないのは、ネット社会の常識。会議が終わると同時にネットで「フジテレビ亀山社長退任。後任は宮内正喜BSフジ社長」をアップした。

 定点で観測し続けること、現場に足を運ぶことの大切さ、そして先輩のありがたさをあらためて思い知った、フジテレビ社長交代劇だった。