女優生活は今年で60年を迎えた。吉行和子(81)。役に恵まれず、葛藤を抱えた時期もあったが、自ら企画する舞台公演が支えになった。60代後半から面白さを感じる役が舞い込むようになり、最近は山田洋次監督(85)の「家族はつらいよ」シリーズで味わい深い演技を披露している。ここまでの道のりと今の気持ちを聞いた。

 シリーズ最新作「家族はつらいよ2」(27日公開)で、熟年離婚の危機を乗り越えた夫婦の妻を演じている。今回は「死」もテーマになっているが「いろんなことがあって、心から笑えてハッピーな気持ちで(亡くなった人を)送り出せる話というのは、さすが山田監督です。とても気持ち良く笑えました」と話す。

 山田作品は13年「東京家族」が初参加。16年のシリーズ前作「家族はつらいよ」に連なる作品だった。「出るチャンスなんか一生ないと思っていた」という憧れの監督から声が掛かり、覚悟も決めた。「監督のおっしゃることが全部染み込むように、今までやってきたこともなし、先入観もなしで、私自身を白紙状態にして監督の前に出て、どういう言葉をいただけるか、どういうことを望んでいるか、分かりながらやっていこうと思いました」。

 「家族はつらいよ」は、夫婦の離婚危機を発端に、ため込んできた家族の不満が噴き上げる様子をユーモアを交えて描いた。新作も家族の尊さを感じるヒューマンドラマ。シリーズを通して「家族」というものを見つめ直した。父は作家吉行エイスケさん、母は97年NHK連続テレビ小説「あぐり」の主人公のモデルにもなった美容師の吉行あぐりさん。さらに兄は作家吉行淳之介さんという一家に育った。母は忙しく台所に立つ暇もなく、家族で食卓を囲む時間などなかった。「家族はいるけど、我が家はみんなで食事したり悲しんだり喜んだりっていうのを経験しないまま終わっちゃった。今1人になってしまって、そういうことをまったく知らないで一生終わっちゃうはずが、この映画に出ることによって家族っていいなと思えました」。