東京・新橋演舞場に進出して4年目になる「熱海五郎一座 フルボディミステリー 消えた目撃者と悩ましい遺産」が27日まで上演中だ。今年はヒロインに藤原紀香(45)を迎えた。

 紀香は夫婦デュオのボーカルとして活動していた安藤京香。類いまれなる美貌の持ち主だが、相方・原中イクラ(小倉久寛)が痴漢容疑で逮捕されたことから芸能界を引退、銀座の高級クラブで働く。原中の裁判は不利な状況だが、弁護士・橋上通(三宅裕司)は無罪を勝ち取ろうと躍起になる。だが、彼らの前に腕利きの検察官・木曽賢治(東貴博&深沢邦之)が立ちはだかる。

 一方で、京香の元夫で医者の藪診誤(渡辺正行)は京香を諦めきれず、京香と交際中の資産家の弁護士事務所代表、黒伊賀護(ラサール石井)との間を引き裂こうとする。黒伊賀の担当医という立場を利用し何とか二人を別れさせ、黒伊賀の全ての遺産を京香に残させようとたくらむ。

 そこへ絶縁された黒伊賀の息子・六法禅宗(春風亭昇太)が突如現れ、遺産相続人として名乗りをあげたことから、激しい争いの火ぶたが切られる。

 ダブルキャストの検察官・木曽賢治を東貴博(47)が演じた公演を見てきた。今年の熱海五郎一座は、間違いなく藤原紀香が主役。例年のヒロインは花を添えるという役割が多かったのだが、今年の紀香は物語の中心でグイグイと引っ張っていく。アフロヘアの不良女子高生のセーラー服姿から、華麗なドレス姿まで、そして踊り、歌い上げる。ミュージカル女優藤原紀香の魅力を十二分に発揮している。“歌う女優”藤原紀香の魅力は、あまり知られていない。もっと歌えばいいのにと思う。

 藤原に合わせたように、舞台のセットも“無駄に豪華”だ。三宅裕司以下の一座の面々が、歌う紀香のバッグで宙に引き上げられるシーンも、何をするでもなく上がるだけ(笑い)。無理に何かを演じることなく、無駄を見せることで笑いを誘っている。

 終演後、東貴博の楽屋を尋ねて話を聞いた。東は開演前の前説も担当しているのだが、トランプ米大統領にふんするなど時事ネタを取り込んで工夫を凝らしている。「ダブルキャストの深沢(邦之)の芝居を見ることも勉強になる。それにしても『熱海五郎一座』は年々、豪華になる。紀香さんのバックに、何もしない6人の男を宙に上げるのだって、同じ数の人手がいるんだからすごいよね」と笑った。

 自らも09年に劇団「FIRE HIP,S」を旗揚げ、毎年夏にプロデュース・作・演出の公演を行っている。「『熱海五郎一座』に出ることで、自分の劇団の公演への参考、刺激になることがたくさんある。今年はレギュラーのはなわの新曲『お義父さん』がヒットし始めてるから、それも楽しみだね」。父は故東八郎、師匠は“欽ちゃん”萩本欽一。東京の軽演劇の灯を守りながら、大きく燃やそうとしている。