上方落語の看板、桂文枝(73)が13日、人生初の富士山頂登頂に成功し、「富士山頂上 奉納落語会」を演じた。この日午前4時25分に五合目をたち、約10時間後の午後2時25分ごろ、山頂へ到着。途中、降雨や、体調不安を乗り越え悲願を果たし、涙した。到着が目標より遅れたため、一部の披露となったが、富士山本宮浅間大社で、自身275作目となる「富士山初登頂」をネタ下ろしした。記念撮影では「富士山頂へいらっしゃーい」と笑顔で喜んだ。

 「(芸能生活)50年の感謝の気持ちを、これからの覚悟に代えようと。それで誰もやってへんやろう、山頂まで登って奉納落語会を考えた。いや、でも、こんなに苦しいとは…。動けるならば、と前へ進んだ」

 大ベテランになった今、富士山にこだわるのは理由がある。04年にも富士山山頂を目指したが、8合目から9合目の途中で高山病を発症しリタイア。再挑戦の機会をうかがっていた。また、70代同世代の友を亡くすことも増え「体が動くうちに」と雪辱を考えた。

 ただ、想像を超えて苦闘した10時間だった。出発当初は花についてトレーナーに質問するなどし、余裕だったが、7合目を過ぎたあたりから大粒の雨が。雨支度のストレスを強いられながらの登山になった。また、9合目を過ぎ、山頂まであと1合となりながら、文枝の息が上がった。血中酸素濃度を計測すると、大きく基準値を下回り、ドクター・ストップならぬ“トレーナー・ストップ”に。いったん山頂目前でリタイアが決まったが、文枝はあきらめず、血中酸素濃度をあげるために深呼吸を繰り返して再計測を申し出、登山継続が認められた。

 今回は、事前に近くの山を登り、高山病に備えて低酸素室でのトレーニングや、痛めたひざの治療も終え、準備万全だっただけに、ゴール目前でのリタイアは考えられなかったようで「あのまま続けて倒れてたら、今シーズン初の遭難者になるとこやったらしい。でも、目標達成できてよかった」と達成感に満ちた表情で話した。【村上久美子】