新作「三度目の殺人」が公開中の是枝裕和監督(55)が日本映画界に危機感を抱いている。このほど日刊スポーツの取材に応じた。カンヌを始め、新作発表のたびに各国の映画祭から注目される国際派は、映画祭に参加することで、新たな製作意欲が、かき立てられるという。ただ、国内に目を向けると、若手監督の育成や成長のためにも、映画業界の「改革」が必要と訴える。

 是枝監督は今月上旬、「三度目の殺人」がベネチア映画祭コンペティション部門に選出され、現地での公式上映や会見などに出席した。受賞は逃したが、得るものはたくさんあった。

 「日本のメディアは賞レースしか興味がなく、賞を取れたか取れなかったかだけを報じて終わるけど、実際に来てみて、あの場所に立つと、少し違う感慨があるんです」

 これまでカンヌ映画祭に6回、ベネチア映画祭に2回参加してきた。世界の映画関係者や、映画ファンが集まる祭典を体感するたび大切な思いを再認識する。

 「自分がやってる仕事って何だろう、映画って何だろうって本質的な“気づき”に出会わせてくれる場なんです。華やかで、ちやほやされて、いい気持ちだから『いいものを作りたい』と思うのではなく、大きなものとつながっている感覚が幸せに感じる。自分が今までやってきたキャリアを振り返り、また続けようって思えるんです」

 世界に飛び出して刺激を受ける一方、視線を国内に向けると、心配になっていることがある。

 「日本映画はこの10年、15年で多様性が失われてきている。公開の規模1つとっても、中規模で公開する作品がビジネスとして成功しなくなってきている」

 映画興行は現在、複数のスクリーンを持つシネマコンプレックス(シネコン)が主流だ。メガヒット狙いの作品が多くのスクリーンを“占拠”してしまい、客足が出遅れた作品は、あっという間に上映機会を失っていく。

 「僕が『誰も知らない』『歩いても歩いても』でやっていた全国50~60館で2カ月くらいロングランできれば元が取れるという(ビジネス)モデルは、今は無理。今は宣伝費をバーッとかけて3週間勝負のような作品が多い。10年ぐらい前の元が取れたころは、小さい作品でも製作費1億円をかけてやれていたものが、今は1500万円くらい。悪いことじゃないけど、それで単館でロングランとなると(観客が)入る上限があるから、そんなに予算をかけられない」

 日本映画は、大規模予算を投じて大ヒットを狙う作品か、予算を徹底的に抑えた小さな作品の二極化になっていると指摘する。

 「300館か単館か。だから中規模で公開する作品を扱う配給会社がつぶれちゃうんです」

 若手監督の育成のためにも、現状の変化が必要だという。

 「(大規模公開で)成功している映画会社も、例えば、中規模のものもやるとか、若手監督をピックアップして、中規模の作品を撮らせた後に大きなものに挑戦させるというように、新たな作家、才能を発見する、育てるという意識を持ってもいい。作家をプレゼンテーションしていくような意識を持ってもいいと思います」

 環境を整える大切さを、日々感じているという。【杉山理紗】

 ◆是枝裕和(これえだ・ひろかず)1962年(昭37)6月6日、東京都生まれ。早大第一文学部卒業後、制作会社テレビマンユニオンに参加、ドキュメンタリー番組を制作。95年監督デビュー作「幻の光」でベネチア映画祭「金のオゼッラ賞(最優秀撮影賞)」を受賞。99年「ワンダフルライフ」で仏ナント3大陸映画祭グランプリ。13年「そして父になる」でカンヌ映画祭審査員賞。代表作は「海街diary」など。