今月上旬、ベネチア国際映画祭を取材した。福山雅治(48)主演、是枝裕和監督の「三度目の殺人」や、北野武監督の「アウトレイジ 最終章」などが名を連ねる中、当時7歳の日本人小学生、古川鳳羅(こがわ・たから)君が主演した日仏合作映画「泳ぎすぎた夜」(五十嵐耕平監督/ダミアン・マニヴェル監督、18年春公開予定)が、斬新な作品を集めたオリゾンティ部門に出品されていた。

 冬の青森に暮らす少年を主人公に、少年と家族の愛や美しい雪景色を映した作品。子どもを撮りたい五十嵐監督と、日本の雪景色を撮りたいマニヴェル監督が14年のロカルノ映画祭で出会い、タッグを組んだ。青森・弘前でキャストを探していた監督2人が、偶然出会ったのが鳳羅君だという。家族の物語とあり、鳳羅君の姉蛍姫(けいき)さん、母知里さん、父孝さんも出演しており、ドキュメンタリーに近い感覚だ。

 ベネチアでの上映前、観客の質疑応答が行われた。記者は都合が合わず取材できなかったが、作品関係者によると、演出や演技指導、監督体制についての質問が上がったほか、「この映画を作ってくれてありがとう」などの好意的な意見が多かったという。終了時間まで質問がやまず、上映は大成功だったようだ。

 空いた時間で五十嵐監督に話を聞いたところ、「作品が評価を得られること自体もうれしいけれど、大小にかかわらず、映画を作る仕事をリスペクトしている。それを地道にでも続けていきたいです」と謙虚に話してくれた。また鳳羅君に将来の夢を聞いたら「ときどき変わるのでまだ分かりません」と、小学2年生にしては現実的かつユーモラスな答えが返ってきて、面食らってしまった。

 どうしてもメディアは有名な監督、キャストがそろう大作ばかりを報じがちだが、世界の舞台で脚光を浴びている作品は他にもある。こうした作品も積極的に報道できる記者でありたいと思った。