里親のもとで育ったシンガー・ソングライター、川嶋あい(31)が23日、大阪市内で行われた「大阪市里親会シンポジウム 親とくらせない子どもたちのいま」(主催・大阪市里親会、大阪市、関西テレビ)に出席し、自らの生い立ちと経験を語った。

 「あいは母さんの本当の娘やけんね」。川嶋は3歳の頃、児童養護施設から川嶋家に里子として迎えられ、その後、養子になった。10歳で父が他界。中学1年のとき、外出途中に母から自宅にある金庫から書類を取ってきてほしいと頼まれた。そのとき、金庫の中で偶然見つけた養子縁組の書類の母の欄に「ぜんぜん知らない名前が書いてあった」。初めて両親と血縁がないことを知り、書類を手に母に詰め寄った。

 「もしかして私はもらわれた子…。これってどういうこと!」。母はこれまでみたこともない表情を浮かべたという。「たぶん一生、本当の真実を伝えるつもりはなかったのかも…」。知ってしまった事実はあまりにも衝撃的だった。

 事実を淡々と説明した母は翌日からこれまで通り、自然体で接してくれた。「血のつながりはなくても、あいは母さんの本当の娘やけんね」。母の言葉に救われた。

 母と娘の2人の夢は「歌手になること」。幼いとき人見知りだった娘を母は「この子を笑顔にするにはどうすればいいのか…」と悩んだ。ある日、福岡県の自宅近くにある音楽教室を訪れた。川嶋は歌うと、笑顔になった。母と娘。2人にとって笑顔の延長線上が「歌手になる」だった。

 母は歌手になるという夢をずっと支え続けてくれた。15歳で歌手を目指して上京。だが、所属事務所に解雇され、渋谷の路上で歌い始める。母に「路上ライブ1000回」を約束した。人気テレビ番組「あいのり」の主題歌でデビューが決まる1カ月前、母は他界。16歳のときだった。

 貧困などさまざまな事情で実の親と暮らせない子どもを預かり、家族の一員として育んでいくのが「里親制度」。この日、自らの経験を語った川嶋は「過ごしてきた年月や会話で本当の家族になれるんですよね。大切な人になれる」と笑顔を見せた。