貴乃花親方の唯一の味方だった世論までが、急速に見限り始めています。

 貴乃花親方は、春場所の会場エディオンアリーナ大阪に出勤せずに、内閣府に告発状を提出しました。日本相撲協会が、一連の貴ノ岩暴行事件に関する処分や裁定をしたのは年末年始。貴乃花親方が、それに明確な異議を表明したのは、2月7日のテレビ朝日の特別番組。それなのに、このタイミングでの内閣府に告発状です。そう、誰しもが「女子レスリングのパターンをマネた?」と、ツッコミを入れてしまう行動に映ってしまいました。

 続いて、さすがに納得や共感はしてもらえない無理矢理な理由での、本場所への欠勤。さすがに世間からも、首を傾げられる流れにしてしまいました。

 貴乃花親方が力説するように、端を発した暴行事件においては、被害者側でした。だから、同情論も多かったのだと思います。

 一方、昨年秋の事件発覚の朝に、謝罪に訪れた伊勢ケ浜親方と日馬富士を無視して車で走り去った行動から始まり、貴乃花親方も、何度も首を傾げてしまう行動を続けてきました。「かばいたくても、かばえない…」。複雑な思いをした支持者も多かったと思います。当初、貴乃花親方を正義、日本相撲協会を悪という安易な構図を立てた人たちも、日に日にバツが悪くなってきたと思います。

 でも残念ながら、これが、かつては、平成の大横綱と呼ばれた貴乃花親方の現実です。本当に、残念ながらなのですが…。

 ただ、思い返しますと、貴乃花親方ともめた人は、昔から近しい人にこそ、多くいました。

 貴乃花親方は、先日のテレビ朝日の特番でも、父(元大関貴ノ花=第11代二子山親方)を尊敬していて(一心)同体のような存在と、あがめる発言をしています。

 しかし、その父が亡くなる晩年の05年。貴乃花親方は、父と不仲になっていて、病院の見舞いすらも行っていませんでした。一方、父とはずっと仲が良く、見舞いに通い続けていたのは兄花田虎上氏。それが、父が亡くなると、メディアを使ったドロドロの遺産相続争いを展開し始め、父の葬儀・告別式をスキャンダラスなものにしてしまいました。(最終的には兄が遺産相続を全放棄)。父の弁護士とまでもめた姿は、どうみても、父を尊敬していたとはいえない見送り方でした。以来、たった1人の兄弟の花田虎上氏とも、ずっと絶縁状態です。

 当時、第11代二子山親方を「オヤジ」と呼んで尊敬していた元関脇安芸乃島(高田川親方)も、貴乃花親方と絶縁しています。理由は、高田川親方が、貴乃花親方の師匠(二子山親方)へのあまりに冷たい態度が許せなかったとも、言われていました。

 最近では、かつての同部屋の元関脇貴闘力が「ワイドナショー」で、貴乃花が最初に理事選に受かった時の内実を明かしました。「『何とか俺を理事にさせてくれ』と言うから『ナンボ票あるねん?』と聞いたら『5票』と。『あとどうするねん?』と聞いたら『お前が何とかせぇ』と言われて、自分は10票を集めて貴乃花を当選させたら、僕だけ(協会を)クビになりました。言いたいこといっぱいあるけど…」と、自虐ネタにされていました。

 このままでは、本当に理解者を失っていく一方です。貴乃花親方の中に、理想の相撲道があるのは分かります。ただ、相撲は1人では取れません。理想の組織をつくるにも多くの同志や協力者が必要です。

 このままでは、通算幕内優勝回数22回の大横綱の栄誉までが、地に落ちてしまいます。もしかしたら、完全に大相撲界での居場所をなくして、協会を去るという最悪の結末になるかもしれません。そんなことは生前、貴乃花親方に目をかけていた大鵬親方、北の湖元理事長も望んではいないはずです。何よりも、かつて、私がこのおふたりから取材で聞いた話は、「日本相撲協会をより良くしていきたい気持ちは皆同じ。一致団結して協会を、大相撲を守って、発展させていくこと」でした。

 本当に貴乃花親方に私利私欲や出世欲などはなく、ひたすら理想の相撲道を実現させたいだけならば、まずは、アスリートファースト、力士ファーストで、まずは本場所土俵上の戦いから尊重してほしい。横綱時代から「神聖な土俵の上が全て」と、美しい理想を唱え続けていた人とは思えない、今場所初日に起こした騒動の再燃。これ以上、自らの偉業や功績を汚す道は進んでほしくないと、願っています。