女優樹木希林さんが15日に亡くなられた。全身がんを公表してなおも表舞台に立ち続ける姿は、多くの人に生きる活力を与えたに違いない。

今年1月、後にカンヌ映画祭最高賞を受賞した映画「万引き家族」(是枝裕和監督)の撮影現場を取材した。希林さんは元気に、いつもの味わい深い演技を披露していたが、休憩に入ると、他のキャストが談笑する横で布団代わりにコートをかぶり、ソファで目を閉じて休んでいたのが印象的だった。体は決して楽ではなかったのだろう。それでも、最後まで女優として生きることを、希林さんは選んだ。

キャストの合同取材では、撮影についてチャーミングに不満をこぼしていた。クリスマスの日、足立区にある古民家の縁側で、音だけが聞こえる花火を探して一家で空を見上げるシーンの撮影をしたそうだ。花火ということは、もちろん“真夏”のシーン。半袖の下にインナーを着込んで臨んだという。

希林さんは「すごい過酷ですよ。真夏の格好して、ビールを飲みながら、縁側でトマトを食べながら、みんなで聞こえない花火で『うわー』って。役者、嫌だなーって。ちょっとでもシャツが見えると『シャツが見える!』って。『もういいよ、何が見えたって』ってくらい」と、身ぶり手ぶりを交えながら、おもしろおかしく話してくれた。

共演の松岡茉優(23)はその日のことを、「急に希林さんが笑いだして『クリスマスにこんなところで撮影してて、情けなくなってきた』って、涙を流して笑ってた」と、笑顔で振り返っていた。

どんなに過酷な現場でも、生きて、女優として芝居ができることを、何よりの喜びに感じていたのだろう。

現場では、出産したばかりの安藤サクラ(32)と子育てについて話しているところも見かけた。共演者らにとっては女優としてだけでなく、人生の先輩として、聞いたり学んだりしたいことがたくさんあったのだろう。

取材時、まだまだ是枝作品へ出演したいと意欲を見せていた希林さん。残念ではあるが、突然逝ってしまうのも、ある意味“規格外”な希林さんらしいのかもしれない。

取材させていただいた一記者として、心よりお悔やみ申し上げます。合掌。