ミュージシャン内田裕也(78)が14日、京都市内で自身のドキュメンタリー映画「転がる魂・内田裕也」(崔洋一監督)の舞台あいさつに登壇した。9月に75歳で亡くなった妻で女優の樹木希林さんがナレーションを務めた思い出の“共演作”となった。「動揺を隠せなかった」と語った妻への短い言葉に、最大の愛と感謝を込めた。

サングラスの奥から遠くを見つめた内田は、何かを思うように言葉を紡いだ。「先日、他界した樹木希林さんが解説で出てたので、ちょっと動揺を隠せなかったですけど、一緒にスクリーンに出られてうれしかったです。ありがとう」。ハットをかぶった黒の正装で車いすに座り、かすれ声を絞り出すように話した。

妻の死後、2回目となる公の場でその名前を呼んだ。これまでは「心の整理がつかない」「啓子(希林さんの本名)、今までありがとう」「見事な女性でした」などの文書コメントだけを残していた。

劇中では内田の勇姿に交じり、声を入れる希林さんが登場する。

希林さんの言葉 ホント分かりづらい人、だけど分かりやすい人。

この日初めて作品を鑑賞した内田の心を熱くした。“共演”した思い出の作品は、希林さんのナレーションによって輝きを増した。

開催中の第5回「京都国際映画祭」に毎年参加している内田の特別企画で上映された。自身が長年主宰している「ニューイヤーズワールドロックフェスティバル」の17年開催に取り組む1年を、40年来の付き合いという崔監督(69)が密着。今夏にテレビ放送された内容をもとに製作された。

登壇した崔監督は、今年7月に撮影を行った際、希林さんが「私の最後のナレーションよ」と自身の病状を理解して話していたと明かした。「機嫌良くスタジオを出ていかれた。非常に強い印象として残っています」と涙を浮かべて感謝した。声を吹き込んだ遺作が夫の作品。崔監督は「2人の縁(えにし)みたいなものを感じた」と振り返った。希林さんは作品の最後で「今日までの人生、上出来でした。私はふっとおひまするかもしれませんが、裕也さんには面白かったわねと伝えました。裕也さん魂が転がって転がってどこへ行くのかな」と内田へのメッセージも残した。

内田は作品を「今後のオレのロックンロールライフに、とても大きなパワーとなってつながると確信してます」。今後も変わらず、内田の背中を希林さんが遠くから見守り続ける。【奥田隼人】