「話を聞く時は、そっぽ向かない。ちゃんと前を向いていなさい!」

小学校時代の担任の先生だったか、それとも両親だったか、はたまた習い事の先生だったか。とにかく、幼少期に何度も言われたような記憶があります。

記者という仕事は、もちろん「書くこと」がメインですが、「聞くこと」も非常に大きな割合を占めます。見て、聞いて、取材をしなければ、記事は書けないからです。1対1のインタビューはもちろん、1対複数の合同取材もあります。多くの報道陣が詰めかける会見もありますし、ライブなどでは、ステージを見て、トークを聞いて、そして関係者に追加取材をして情報の補足をすることもあります。

最近、取材をしていて、とても気になっていることがあります。囲み取材の最中の「聞く姿勢」です。マイクを向けるリポーターはもちろんタレントのほうを向いていますし、スポーツ新聞の記者も比較的タレントに近寄り、気になったことがあれば質問しながら、タレントの表情を見てメモをとっています。そんな中で、周辺に腰掛け、タレントが話した言葉をひたすらパソコンに打っているメディアの方々がいるのです。

こんなこともありました。あるタレントがスポーツ新聞はじめ数社のメディアに対しての取材に応じ、タレント1人対メディア10人弱の小規模な囲み取材となりました。全員椅子に座り、タレントと1メートルくらいの距離で話を聞いたのですが、1人だけ、タレントの顔も見ずにパソコンを打っているだけの記者がいました。この記者は、結局最後までタレントに質問することもなく、キーボードとパソコンの画面だけ見続けていました。

堅苦しい言い方にはなってしまいますが、全く質問するそぶりすら見せず、一心不乱にパソコンのキーを打ち続けるというのは、「人の話を聞く姿勢」として、いかがなものでしょうか。

実際、数人の方が囲み取材の前方に陣取りあぐらをかいてパソコンを打っているのを見て「あそこまでやられちゃうと、ちょっと失礼な気もしますよね」と話す芸能事務所関係者もいましたし、「そもそも、パチパチとキーをたたく音がうるさいし、場所的にも迷惑」と話していたワイドショー関係者もいました。

もちろん、パソコンを打つことを全否定するつもりはありません。政治家などの一斉会見では、パソコンを打ちながら聞くスタイルが主流となっているようです。正直に言えば自分も、椅子に座って聞くタレントのCM発表会見や、記者が質問する機会のないイベントなどの取材では、パソコンのキーを打ちながら取材することも、少なからずあります。

メディアとしての方針もあると思います。囲み取材時のパソコン打ちが横行してしまった大きな理由の1つは、インターネットでの記事配信だと思います。どの媒体よりも速く記事を出して、アクセスを稼ぐ。確かに大切なテーマだと思いますし、メディアによっては、そういった取材方法を選択することもあると思います。「記事を出すことが優先だから、後れを取らないために自分から質問はするな!」と上司から指示されているメディアもあるそうです。

ただ、個人的には、最低限の「話を聞く姿勢」は守るべきだと思います。リポーターや記者からの質問だけを頼りにして、ただタレントが答えた内容をひたすら打ち続けるのも1つの取材方法ではありますが、より取材を意味あるものにするためにも、何か聞くことはないか考えるのがメディアの役割ではないでしょうか。

主催者側に対して僭越(せんえつ)ながら1つ、提案させていただけるのならば、イベントや会見には可能な限り解禁時間を設けてはいかがでしょうか。メディア関係者だけが入る会見などは、会見終了から1~2時間余裕を持って解禁時間を設ける。こうすれば、われ先に、と囲み取材中からパソコンを打ちまくる必要もなくなりますし、メディアにとっても、タレント側にとっても有意義ではないでしょうか。

もちろん、大勢の観客が見ているイベントや、テレビの生放送が入った会見などはいちいち解禁時間などと言ってられません。一方、たとえば今でも、舞台の初日公演前ゲネプロの取材内容は、公演を見られる方々よりも早くネタバレをするわけにはいかないので、初日公演終了後に解禁時間を設けていたりもします。このあたりはケース・バイ・ケースだと思います。

しっかり余裕をもって解禁時間を設ければ、1つの会見でも各メディアがいろいろな切り口で記事を書くかもしれません。会社の方針でパソコンを打ちながら囲み取材に参加しているメディアの方々も、リポーターが思いつかない角度の質問ができる余裕が生まれるかもしれません。長文になってしまいましたが、自分自身も、もう1度「取材」とは何なのかをよく考えながら、話を聞き、記事を書いていきたいと思います。