秋元康氏が手がける劇団4ドル50セントの第2回本公演「ピエロになりたい」が12月2日、東京・有楽町オルタナティブシアターで千秋楽を迎えた。公演の終盤、劇団の未完成さと団結力をまるごと映し出したような、“卒業できない事件”が起こった。

同公演はピエロの養成学校が舞台。はみ出しものが集まった新入生クラスが、未来に進むよう導く教師との出会いや、他のクラスとの対立と和解を経て成長していく様子を描く。ピエロらしい芸を披露するシーンもあり、劇団員たちは約2カ月間ジャグリングを練習した。見せ場の1つが、養成学校の「卒業試験」と銘打って、「カスケード」と呼ばれる3つのボールを両手で交互に操るお手玉のような芸を、全出演者25人が同時に100回ノーミスで成功させるシーンだ。

稽古初日、劇団員たちは「カスケード」に挑戦したが、久道成光(25)らごく一部の経験者を除いて、2~3回続けるのがやっとだった。それでも稽古や自主練を重ね、全員が単独で100回以上続けられるようになった。25人が100回連続ミスなく続けることは素人目から見ても容易ではなく、何度もやり直して間延びしてしまう公演もあったが、わずか2度目の挑戦で成功する日もあるなど、確実に進歩してきた。

そして、いよいよ千秋楽。「卒業試験」の前、校長役のうえきやサトシ(28)が「1回で、成功させよう!」と叫ぶ。「はい!」。全員がうなずく。開演前から、全員の気持ちは1つだった。並々ならぬ決意で、カスケードに臨んだ。60、70、80…。回数を伝える久道のコールが続く。劇団員の中にも、カウントに合わせて手拍子する観客の中にも、「千秋楽で初めて1回で成功するなんて、まさに有終の美だ!」などとよぎった者がいるであろう、96~97回目。糸原美波(22)がボールを前に落とし、その場に崩れ落ちた。

落胆もつかの間、目に涙を浮かべる糸原を、劇団員たちが笑顔で励ました。うえきやは「ほとんど達成しましたよね!」とアピール。会場に拍手がわき起こった。つかみかけた「千秋楽での一発成功」は文字通り手のひらからすり抜けていったが、気を取り直して2回目の挑戦。再び集中したはずだった。だが、中盤で長谷川晴奈(21)が失敗し、叫び声をあげた。

負の連鎖は続く。「手が震える」と動揺を隠せない糸原が再び失敗すれば、あと少しというところでうえきやがボールを落とす。前田悠雅(20)がミスし、「すぐ、やりましょう!」と切り替えようとするが、吉原奈緒花(20)尾崎尉二(24)ら、過去の公演ではミスの少なかったメンバーも次々と失敗する。糸原が「もうダメだ、私…」とつぶやくと、前田が「ダメじゃないよ!」と激励する。

緊張の糸が切れたかのように、挑戦は10回を超えていった。劇団員たちに焦りの表情が浮かぶ。公演によっては、テンポよくストーリーを進めるため「3人まで失敗してもセーフ」という救済措置をとることもあったが、この日は千秋楽。意地でも全員で100回続けないことには、“卒業”と言えるはずもなかった。

筆者が「これはもしかしたら、無理かもしれない」と思った時だった。福島雪菜(20)が、通る声で提案した。「円陣、組みません?」。劇団員たちは「うん!」とうなずき、すぐに集まって肩を組み始めた。普段円陣で声を出すうえきやが「何を話せば…」と言うと、隣で肩を組んでいた前田から思いっきり足を踏まれ、活を入れられた。「よし! 100回、絶対成功させるぞ!!」。うえきやの雄たけびに全員が呼応し、右足で舞台をたたいた。25人は、再び1つになった。

円陣を解き、立ち位置に戻った劇団員たちの表情に不安はなかった。その時点で、もう結果は出ていたのかもしれない。70、80、90…。100回到達とともに、全員がジャンプして喜んだ。本西彩希帆(20)蕪祐典(23)らメインキャストは、ダブルキャストで主演の湯川玲菜(17)を囲むように、ステージ中央に集まって笑顔を見せた。客席には、両手を挙げて歓喜する観客もいた。

終演後、カーテンコールで湯川があいさつした。「『ピエロになりたい』というタイトルは、秋元康さんが考えてくださいました。ピエロになろうと成長していく過程と、私たち4ドル50セントが芸能活動して成長していく過程が合わさると、素晴らしいものになるんじゃないか、ということでテーマを決めてくださいました」。1つ1つ言葉を確認するように、間をとって話した。「自分とたくさん向き合ったし、悔しい思いもしたし、葛藤もたくさんあったんですけど、みんなで支え合ってここまでこれたんじゃないかなと思います」と笑った。

人一倍せりふの多いリーダー岡田帆乃佳(22)が続けた。「秋元さんがそういう課題のようなものをくださって。今日のカスケードも、何度も失敗して。何度も、何度も。皆さんにお時間、とらせてしまって申し訳ないと思いました」と謝罪した。その上で「でも、私たちは本当に、ああやって何度誰かが失敗しても、絶対にみんなで手をつないで、絶対に日本一の劇団目指したいと思っているので。本気です!」と訴えた。

そして「時間がかかるかもしれないし、皆さんには不安な思いや、いっぱい心配をかけるかもしれませんが、絶対に応援して後悔しなかった、って思わせるので、これからも応援よろしくお願いします!」と伝え、大歓声を浴びた。

昨年8月の劇団旗揚げ記者会見で、秋元氏は劇団のコンセプトについて「今回はアイドルではなくて、あくまで劇団。音楽とともに、どこか懐かしい、泥くさくて汗にまみれたことができたらと思ってやっています」と話していた。「ピエロになりたい」は客席が埋まらない公演もあったが、公演期間に入った後に終盤の日程が完売するなど、確実にステップアップしている。まだメディア出演は多くないが、男女入り交じってのパフォーマンスも迫力を増してきた。

千秋楽を終えた湯川は「成長するには、気づかなきゃいけない。いろんなことに気づくことができて、この公演でよかったなと思います」と初の主演作品を振り返った。「あの日のカスケードは、1回で成功しなくてよかったのかもしれない」。何カ月後か何年後か、全員がそう思える日が来るような気がする。