昨年の大みそかは、東京・渋谷のNHKホールで紅白歌合戦を取材した。究極の大トリとして登場したサザンオールスターズのパフォーマンスに興奮したが、実はもう1人、出てくるたびにおかしくて笑いが止まらず、楽しい思いをさせてくれた人がいた。俳優の武田真治(46)だ。昨年、同局の番組「みんなで筋肉体操」の出演者として話題を呼び、今回は盛り上げ役を期待され、初めて紅白のステージに登場することになった。

衣装は「みんなで筋肉体操」でも着ている体のラインがくっきり分かるタンクトップとショートパンツ。天童よしみの出番に、ステージに登場して、ひたすら腕立て伏せを続け、途中から得意のサックス演奏も披露した。熱唱する天童の横で、曲とはおよそ関係のないパフォーマンスを続ける異様な光景に、思わず声を上げて爆笑してしまった。

その後、内村光良ふんしるNHK紅白スーパーバイザー三津谷寛治氏が「問題あり」と判断した人を自室に呼び出す「ダメ出しコーナー」にも登場した。DA PUMPや乃木坂46白石麻衣ら出場歌手が出演する中、盛り上げ役にもかかわらず、参加したのは武田だけという“特別待遇”だった。衣装のまま参加した武田は、吹き出しそうになるのをこらえている内村から「その格好は何ですか!」と二枚目俳優らしからぬ姿での紅白出演に対して一喝された。天童よしみが歌ったのは、北海道の民謡「ソーラン節」をモチーフにした曲だった。内村に「北海道に、ソーラン節、サックスに筋肉…。近年まれに見るカオスです。ステージ上で腕立て伏せをやる人は初めて見ました」とツッコミを入れられ、苦笑いしていた。

武田はその後も、DA PUMPやサザンのステージにも盛り上げ役の1人として登場するなど、何度も画面に現れた。演出とはいえ、こうした武田の姿を見ると、はしゃいで、ふざけているように受け止める人もいたかも知れない。しかし当の本人は、真剣に自分の出番と向き合っていたのだ。

私たち取材記者は、出場者やスタッフが行き交う紅白のステージ裏にも入ることができる。そこで見た武田は、この日の画面で見た印象とはまったく違った。天童の出番直前、披露する予定のサックス演奏の練習を真剣な表情で延々と続けていた。演奏時間は短いはずなのに、そこまで準備するか、と言いたくなるような、鬼気迫るその様子に少々圧倒された。

出場歌手だけでなく、盛り上げ役でもそこまで真剣にさせてしまうことに、国民的番組が持つ「重み」をあらためて感じた。それと同時に、見ていて吹き出してしまう「おふざけ」に、真面目に取り組む武田に強い「プロ意識」を感じた。