麻薬取締法違反の罪で起訴されたピエール瀧被告(52)の出演部分をそのまま使って公開された映画「麻雀放浪記2020」を都内の劇場で見た。

いわば公開強行の判断の是非は別にして、いろんな意味でチャレンジングな作品だった。

戦後の荒廃とした世界で生きていた坊や哲が現代にタイムスリップ。といってもそこは戦争で東京五輪が中止になったパラレルワールドだ。過剰な管理、AI導入が負の方向に作用し、戦後とは別の意味で荒廃している。

「止められるか、俺たちを」(17年)の白石和弥監督(44)は全編をiPhone(アイフォーン)8で撮影するという新手で、荒唐無稽な設定に臨場感と躍動感をもたらしている。主戦場の麻雀卓ではプレーヤーの目や牌をなめるような撮影に確かな迫力がある。

「構想10年」に関わり、作品全体を俯瞰(ふかん)してエネルギーを配分している主演・斎藤工(37)と、その場その場で思いっきり発散しているような竹中直人(63)のコントラストが面白い。ヒロインも異色だ。チャラン・ポ・ランタンのボーカルもも(26)がそこにいそうな手ざわり感を醸し出す。

アンドロイドに成り切ったベッキー(35)、そして岡崎体育、的場浩司、小松政夫…脇役の個性を上げればきりがない。良くも悪しくも瀧被告もはまり役だ。

阿佐田哲也氏の原作を見事に映像化した和田誠監督不動の作品「麻雀放浪記」(84年)への思いが深いからこそのさまざまなチャレンジなのだろう。

今年2月。ブルーリボン賞の授賞パーティーで白石監督は「この作品はちゃんと公開されるのだろうか。僕にも分かりません」と率直に心配を口にしていた。

当時からマカオ映画祭での上映中止。国会議員試写では「五輪中止設定」へのクレームが出て、波風が聞こえていた。一線を越えてしまった問題作なのか、それとも話題作りの宣伝活動なのか。マスコミ試写も行われなかった。

そして公開1カ月前の瀧被告逮捕である。くしくも公開前日に保釈というタイミングにもなった。

雑音だらけの公開となったわけだが、一見とっぴな作品だからこそ、スタッフ・キャストは平たんな環境で観客の評価を受けたかったのではないかと思う。【相原斎】