東急シアターオーブで上演中のミュージカル「王様と私」は、渡辺謙とケリー・オハラのコンビに圧倒された。

1951年に初演されたリチャード・ロジャース作曲、オスカー・ハマースタイン2脚本・作詞の名作ミュージカルだが、15年にニューヨークのリンカーン・センターで新演出によってリバイバル上演された時、ミュージカル初挑戦で渡辺は王様役、オハラは英国人家庭教師アンナ役を演じた。オハラが同役でトニー賞を受賞し、渡辺もノミネートされたが、受賞を逃していた。18年にはロンドンでも再演されたが、その時の舞台装置、衣装はもちろん、出演者もほぼオリジナルで来日した。ブロードウェーミュージカルの来日公演は多いが、その大半はツアー用に結集したメンバーで、格落ちの感があるものが少なくないが、今回は正真正銘の「本物」だった。

渡辺は「日本の上演は『ケリー・オハラを日本のお客様に見せたい』というのが1番の条件でした。トップクラスが来日することはあまりないので、それが実現したことが1番うれしい」と正直な気持ちを明かした。オハラも「今まで多くの王様役の方と演じてきたが、渡辺さんの演じる王様は特別で、今までにない王様。とてもパッションを感じる。自分の演技もそれに合わせて、ステップアップしないと、と感じています」と息は合っている。

チケット代こそSS席は1万9000円と、通常のミュージカル公演に比べると割高だが、満足度は高いはず。また、渡辺謙だけが注目されているが、ロンドン公演でクララホム首相役を演じて、世界デビューした大沢たかおも、同じ役で凱旋(がいせん)出演している。渡辺は「劇場に来る時は胸を躍らせて、帰りは『シャル・ウイ・ダンス』を歌いながら帰れると思う」と話していたが、その言葉にうそはなかった。【林尚之】