仲代達矢(86)が主演する無名塾公演「ペテン師タルチュフ」(東京は来年3月)が石川・七尾市の能登演劇堂で上演されている。モリエールの古典喜劇で、仲代のひょうひょうとしたペテン師ぶりに笑いが何度も起こった。「だらしのない、愛きょうあるタルチュフになったかな」。来年11月からは太宰治原作の朗読劇「人間失格」を上演し、2年後にも舞台を予定。「90歳で舞台に」という夢が視野に入ってきた。

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仲代が躍動した。演じるタルチュフは、信心深い男を装って金持ち一家に取り入り、財産だけでなく、若い娘も手に入れようとするペテン師。登場は開演45分後だが、仲代が姿を見せると、新劇では珍しい拍手が起こった。長いせりふもこなし、妻にも言葉巧みに言い寄ろうとする姿に、劇場に笑いがあふれた。

「出ただけで拍手が起こって、びっくりした。長い役者人生で初めて」という。無名塾の中堅・新人が共演し「彼らもうまくなってきた。師弟関係じゃなく、若いやつらに負けまいという気持ちになった」。

俳優座時代の25歳の時に、師匠千田是也さんが主演した「タルチュフ」に出演。「いつか自分でやりたい」という60年越しの思いを実現した。「千田さんはしっかりとしたタルチュフだけれど、僕はだらしない、喜劇的なタルチュフで、柔らかさを狙った役作りをした。権力者の言うことについて行ったら、戦争になったりと、ペテン師はいつの時代でもいると思う」。

九州・中国巡演を経て、東京公演は来年3月にサンシャイン劇場(8~15日)で行う。全国35カ所、78ステージの長丁場になるが、「記憶力は落ちたけれど、足腰はしっかりして、健康だから、大丈夫です」。

来年11月から太宰治原作の朗読劇「人間失格」の上演が決定、「昔から太宰が好きで、『人間失格』をやってみたいと思っていた」。2年後にも舞台の企画が進んでいる。山本周五郎原作、亡き妻宮崎恭子さんが脚本を書いた「いのちぼうにふろう物語」で、仲代は「再演を望む声が一番多かった。そろそろ引退の年齢だけど、まだやりたい作品は数本ある」。仲代の「90歳で舞台に」という夢に一歩一歩近づいている。【林尚之】

◆仲代と能登演劇堂 無名塾は、能登演劇堂を皮切りに全国巡演している。83年に仲代が家族で訪れた能登の中島町(現七尾市)を気に入り、無名塾の稽古合宿を行うようになった。95年に仲代夫妻が監修した演劇専用の能登演劇堂が開場。無名塾「ソラネス」でこけら落とし公演を行い、市民も参加した「マクベス」などの長期公演も行った。