クリント・イーストウッド監督(89)の記念すべき40作目の監督作「リチャード・ジュエル」が17日に公開される。96年、アトランタ五輪期間中に起きた爆破事件で、多くの命を救いながらも容疑者に仕立てられた警備員を描いた実話。このほど、ロサンゼルスで日刊スポーツの取材に応じた。今年90歳になる同監督は、尽きぬ創作への思いを語った。(ロサンゼルス=千歳香奈子通信員)

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イーストウッド監督へのインタビューは6回目。1年前と変わらず「やあ、元気だったかい」と、さっそうと取材場所に現れた。

「リチャード・ジュエル」は、英雄から一転して容疑者となった警備員リチャード・ジュエル氏の視点で、爆破事件の真実に鋭く切り込んだ。爆弾犯の汚名を着せられ、FBIとマスコミに追い詰められた物語は24年前の出来事だが、同監督は「今の時代にも起こりうる」と、現代のSNS社会に警鐘を鳴らす。

誰もが気軽に情報を発信できる現代を「とてもクレイジーだ」ととらえる同監督は「道を歩いている人もレストランで食事をするカップルもみんな、すべてを乗っ取られたように携帯画面を見ている。周りの景色を自分の目で見て楽しむことは大切だよ。私はSNSも携帯メールもしないし、たまに電話するくらい」と語る。

記者がアトランタ支局勤務中、この事件、騒動が起きた。イーストウッド監督も当時、新聞を読んで興味を持った。映画化に向け、ジュエル氏の母親や潔白を証明した弁護士らに面会した。登場する女性記者の描写について新聞社から抗議も受けたそうで、実話を映画化する難しさを語った。

もともと、映画化を企画していたのは「J・エドガー」(11年)でタッグを組んだレオナルド・ディカプリオだったが、紆余(うよ)曲折をへて、イーストウッド監督の手に権利が渡ったという。インタビューでは、ディカプリオが「ワンスアポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」で西部劇スターを演じたことにも話題が広がった。同監督が「昔、私もそうだった」と、西部劇スター時代を振り返る場面もあった。

5月31日で90歳。イーストウッド監督は「何歳まで生きるか気にしていないし、変わらず人生を楽しんでいる。次回作は決まっていないけど、興味のある題材はいくつかある。動きだせば早い」と、情熱たっぷりに語った。

◆事件メモ アトランタ五輪7日目の96年7月27日、センテニアル・オリンピック公園の野外コンサート会場でパイプ爆弾による爆破事件が発生し、2人が死亡、111人が負傷した。ベンチ下に置かれた不審なバッグを最初に発見した警備員リチャード・ジュエル氏は英雄として時の人となるが、地元紙の記事で一転、犯人扱いを受けた。同10月に容疑は晴れたが、報道被害などさまざまな問題を残した。同氏は07年に44歳で死去。