【米ロサンゼルス9日(日本時間10日)=千歳香奈子通信員】第92回アカデミー賞授賞式がハリウッドのドルビー・シアターで行われ、韓国の「パラサイト 半地下の家族」(ポン・ジュノ監督)が、外国語映画として史上初の作品賞を受賞した。監督賞、脚本賞、国際長編映画賞(旧外国語映画賞)も合わせ、最多4冠に輝いた。

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史上初づくしだ。韓国映画として、アジア映画として、外国語映画として初の作品賞。作品賞と国際長編映画賞の同時受賞も初だ。会場にいる監督や俳優たちはスタンディングオベーションで祝福した。

ポン監督は式序盤、体全体で喜びを表現し「今日は朝まで飲み続けます!!」などとスピーチしていたが、驚きの方が大きくなっていった。監督賞の時には「国際長編映画賞受賞で今日の出番はもう終わりだと思っていた」と言い、最後の作品賞の時には、2人のプロデューサーのスピーチを落ち着いて見守った。

後で「最高です。信じられません。朝、目を覚ましたら全部が夢だったんじゃないかと思えるくらい現実味がないです」と言うほどの快挙だった。

全米メディアも大々的に報じた。昨年、ネットフリックスが配信、公開した「ROMA/ローマ」(アルフォンソ・キュアロン監督)は、作品賞と外国語作品賞の同時受賞の声も高かったが、作品賞は逃した。「パラサイト」の快挙に、メディアは「壁を破った」と伝えた。ポン監督も「外国語映画が作品賞を受賞することが大したことじゃないようになったらいい」と話しており、歴史的な1歩を刻んだ。

家族全員が失業中の一家と、IT企業経営の裕福な社長一家が出会う物語。格差社会など、現代が抱える問題を描きながらもエンターテインメント性高く仕上げた。各批評家賞などを総なめにし、昨年のカンヌ映画祭では最高賞パルムドールも受賞。アカデミー賞作品賞とパルムドールのダブル受賞は64年ぶりという快挙も加わった。

今月下旬にポン監督と主演のソン・ガンホが急きょ来日することが決定した。日本では観客動員100万人を超え、興収15億円を突破。190館で公開中で、245館まで拡大することも決まった。さらに拡大するとみられ、配給のビターズ・エンド関係者は「できるだけ長く上映し、ムーブオーバーも考えたい」と、上映館を移しながらのロングランを目指すとした。

◆ポン・ジュノ監督は1969年9月14日生まれ。延世大学卒業後、映画の専門学校で学んだ。初長編は00年「ほえる犬は噛まない」。03年、実際の連続殺人事件をもとにした作品「殺人の追憶」が500万人動員のヒットを記録した。「グエムル-漢江の怪物-」「母なる証明」など、家族や社会問題を描いた作品群で知られる、優れた脚本と映像を両立させている。かつては「韓国の黒沢明」「韓国のスティーブン・スピルバーグ」と呼ばれることもあったが、今では1つのジャンルとして確立している。