歌手の槇原敬之容疑者(50)が13日に覚せい剤取締法違反などの疑いで警視庁に逮捕された。第一報が入ったのは、同日の午後5時すぎだった。

当時、わが日刊スポーツ編集局文化社会部の芸能班にいたのは、新人君を含む3人。新人君以外が事件に強い同僚ということで、強い決意を持って気配を消しながら、東京・築地の社からコッソリ脱出した。

なぜなら、その日は女優で作家、コメンテーターとして活躍する中江有里(46)が、東京・渋谷の「JZ Brat」で初のライブ「R■aliser」を開く予定だったからだ。

中江は89年にJR東海のCMでデビュー。女優として映画、ドラマに出演する一方で91年にシングル「花をください」で歌手デビューして93年まで活動。それ以降は女優、小説家の道を歩んできた。この日は、デビューから32年目で初のライブだった。

92年の日本テレビ系「奇麗になりたい」で連ドラ初主演した時の中江は18歳。記者は「ポスト宮沢りえ」として取り上げた。当時の新人女優は10代なら「ポスト宮沢りえ」、20代なら「ポスト鈴木保奈美」。そんな原稿を書きまくっていた(笑い)。

今と違って、当時の日本の芸能界は、年末年始にハワイに“移住”していた。日刊スポーツも毎年、暮れから年始にかけて記者とカメラマンを特派していた。記者は93年の正月にハワイで中江をインタビューした。そこで、19歳の中江は「今年は歌手としても頑張りたい」と話してくれていた。だが、この年で歌手活動は終了。その後は、95年下半期のNHKテレビ小説「走らんか!」のヒロインを務めるなど女優に全力投球。やがて脚本家、小説家として活動の幅を広げてきた。

作詞家の松井五郎氏が、中江が昨年6月に出版した小説「トランスファー」をモチーフにして作った新曲「名前のない海」を贈ったことから、再び動きだした中の歌手活動。この日のライブではデビュー曲「花をください」、「奇麗になりたい」の挿入歌「風の姿」を聞くことができた。自身の足跡をたどるような「回り道」、フランス語で“夢をかなえる”という意味のライブの題名にもなった「R■aliser」を歌い上げた。

中江は「歌は私の宝物。小説を書いて女優もやっています。いろいろなことをやっていますが、全ての表現が中江有里なんです」と話した。

そして「まさか、こういう日が来るとは思っていませんでした」と笑顔を見せた。同じことを、記者もステージを見ながら思った(笑い)。

※■はアキュートアクセント付きE小文字