18年の映画「カメラを止めるな!」の上田慎一郎監督(36)が、完全リモートで約26分の短編映画「カメラを止めるな! リモート大作戦!」(「リモ止め」)を製作し、1日午後6時からYouTubeで配信を始めた。

新型コロナウイルスの感染が拡大し、外出自粛を余儀なくされる中、「カメ止め」で37分間ワンシーン・ワンカットでゾンビサバイバル映画を撮影した撮影隊が、新型ウイルスの拡大で自宅待機を余儀なくされた中、リモートで再現ドラマの制作に挑む物語を作った。配信スタートから一夜明けた2日午後11時43分、再生回数は10万回の大台を突破した。

インターネット会議システム「Zoom」を通じて、日刊スポーツの単独取材に応じた上田監督に、完全リモート製作の秘密を聞いた。

第2回は昨今、さまざまな企画が展開され始めたリモート映画の中で、一線を画するための創意工夫を紹介する。

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-工夫したポイントは

上田監督 Zoomを使ったドラマは結構、引きのままいっているのが多いんです。でも「リモ止め」では結構、カット割りもしているんですよ。引きと寄りを使い分け、アップにしたり自撮り映像を混ぜたりしています。あと…意外とみんな、やっていないことで気付きがあったんですけど。

-気付きとは?

上田監督 Zoomの会議でしゃべる時は普通、カメラ目線ではなく画面上の相手の人を見るじゃないですか? 今回は、基本的にはカメラ目線にしたんですよ。これ全然、印象が違うんです。観客に語りかけてきている感が違う。リアルはカメラ目線ではないんですけど、人としゃべっている感、一緒に会議に参加している感が出ます。カメラ目線にするかどうか最初、方向性は迷いましたけど…ユーチューバーも、基本的にはカメラ目線が多い。キャストは(パソコンの)カメラを見ていると、画面に映っている他のみんなは見ないので、芝居はちょっとしにくいんです。だからテストはカメラ目線じゃなくやって、本番はカメラ目線中心でやってもらいました。苦戦していたところもありましたけど、いつもと違って新鮮だとやってくれましたよ。

-作ってみた感想は?

上田監督 難しいところは、もちろんありました。今回、YouTubeに上げたんですけど…現場で映画やドラマを撮影するのとは別ですね。僕も普段からネットで映画、ドラマを見たりしますけど、映画館で見るのとでは全然、お客さんの前提条件が違う。映画館は、集中した環境で見ることが出来るじゃないですか? 映画の中では、緩やかな日常、会話が生きますが、インターネット上では(チャンネルを)変えられてしまうので、間を許さない。演出面は、その辺、意識してやりました。映画館で見る映画のテンポではないですね。

-特に印象深かったシーンは

上田監督 ネタバレどうのこうのという作品ではないんですよ。割と真っすぐな球で…ラストシーンで、日暮家3人での短い会話があるんですが、今しか撮ることが出来ない、奇跡のようなシーンだと思ったんですよね。真魚(日暮真央役)が涙を流すシーン…あそこは4テイクぐらいやったんですが、真魚が泣いてしまったのは、あのテイクだけでした。他のテイクは、カラッと明るくやってたんですが、この前に僕が真魚に「(脚本を執筆する中で)このセリフを書いた時、急に泣けてきたんだ」って言ったんです。そしたら、あの奇跡のテイクが生まれました。おそらく2度と撮れない映像、虚実がないまぜになったシーンです。真魚が今、役を演じて気持ちを言っているのか、本人が言っているのか曖昧な感じになったんです。あれはもう、真魚と真央の間ですね。

-ファンにメッセージ

上田監督 ちゃんと「カメ止め」ですし、今までの「カメ止め」、スピンオフドラマとは全く違う「カメ止め」にもなっているので、ぜひ…今、見ることに意味がある作品になっていると思うので。パソコン、スマートフォン…持っている環境は、それぞれだと思うので、何で見てもらえれば、と思いますけど…26分間だけは、できるだけ大きな画面で、部屋の電気を消して暗くして見てもらえると、ありがたいです。

上田監督の口からは、コロナ禍に見舞われた映画業界が置かれている現状、今後の見通し…そして未来まで、発言は多岐にわたった。また別の機会に、紹介したい。【村上幸将】