新型コロナウイルスの感染拡大で、コンサートが延期や中止に追い込まれるなど、「ライブイベント」に携わる業界も大きな打撃を受けている。2月26日に政府がイベントの自粛要請を出してから約3カ月。イベント産業の窮状や今後の見通しについて、一般社団法人コンサートプロモーターズ協会の中西健夫会長(63)に聞いた。

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2月26日。コロナウイルス感染拡大の防疫策として、日本政府が最初に人の動きを止める対象としたのがスポーツ・文化団体の興行だった。中西会長が語る業界の損失は衝撃的だ。

「5月末まで、野球、サッカーなどスポーツを含めたライブエンターテインメント業界で中止・延期した公演は15万3000本、損失は3300億円。会場に足を運べなかった人は、日本の全人口にも相当する、のべ1億1000万人と言われています」

音楽ライブは通常、ドームクラスで30社、音楽フェスは100社以上が関与するとされる。音響、照明、舞台、楽器、警備、ケータリングと職種も多岐にわたる。学生アルバイトから専門性の高いフリーランスまで、あらゆる人によって支えられライブが成り立つ。

「専門職で、誰か新しい人を入れたら済むかというと難しい。例えば舞台を作るのには、とび職の方の力が必要です。ライブがない今、その方々は建築の現場に戻ってしまうでしょう。ありがたいことにライブ産業はここ数年堅調で、雇用はものすごく生まれていました。それが、一気に失われている状態です」

地方への打撃も大きい。

「僕らは、地方創生、内需拡大をやっている産業だと思っています。ライブを地方開催する際に、人が移動することで、ものすごい経済効果を生んでいます。今、地方のプロモーターは何もできていない状況で、ホテル業界も存続が危ぶまれます。いざ、ライブを再開するとなった時に、地元のプロモーターはいるのか、泊まるところはあるのか。長引くと不安です。リアルに大変です」

緊急事態宣言が全国で解除され、徐々にイベント業界の再開に向けた動きも出てきたが、課題も多い。

「3密という言葉も定着し、ライブ会場に対する認識も変化しています。ソーシャルディスタンスに沿った形での客席の提案も出てきていますが、実際にお客さんを4分の1にして、チケット料を4倍…というわけにもいきません。世間の納得も必要ですし、僕らができる万全な態勢でやるしかないと思っています」

イベント業界が本格的に動きだすには、出演者やスタッフ、ファンが都道府県をまたいで移動することもケアしなければならない。

「音楽ライブを見に行く人は、年間延べ5000万人近くいます。例えば、出演者側は抗原検査をして陰性だから地方の移動は大丈夫という形も、作らないといけないでしょう」

同協会は、日本音楽事業者協会、日本音楽制作者連盟との3団体による基金を立ち上げたほか、経産省と協力し、開催時のガイドライン作成に取り組む。中西会長は、一般社団法人日本野球機構(NPB)と公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)が連携する「新型コロナウイルス対策連絡会議」にもオブザーバーとして出席。音楽ファンが安心してライブを楽しめるための環境整備の研究に余念がない。

「金銭的な部分はもちろん、心の問題に対するケアも必要になってくると思います。ライブエンターテインメントに従事する人も同じ人間。音楽や舞台に対するエネルギーを持ち続けられるよう、何ができるかを常に考えています」

いつの時代も、音楽は人々とともにあった。

「人が集まってはいけない状況下で、人の気持ちに寄り添うということを企画できないのはつらいことです。でも、音楽の力がより必要になる局面が出てくると信じたいですし、出てくるはずです」

(聞き手・大友陽平、山内崇章)

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◆中西健夫(なかにし・たけお)1956年(昭31)京都府生まれ。81年に株式会社ディスクガレージに入社し、数多くの国内アーティストのコンサートを手掛ける。97年から同社社長に就任。18年設立のディスクガレージホールディングスでグループ代表に。12年から一般社団法人コンサートプロモーターズ協会会長も兼任。昨年4月、理想的なスタジアム・アリーナ像の実現を目指すECSA設立に携わり、代表理事副会長を兼任。

 

◆コロナ禍での主な音楽業界の動き

▼2月26日 政府がスポーツ・文化団体に対してイベント中止を要請。Perfumeの東京ドーム公演、EXILEの京セラドーム大阪公演など急きょ中止

▼3月4日 日本音楽事業者協会、一般社団法人日本音楽制作者連盟、コンサートプロモーターズ協会の3団体が共同で声明を発表。「#春は必ず来る」。

▼同30~31日 東京都や大阪府がライブハウスの営業自粛を要請

▼4月7日 緊急事態宣言が発出

▼同19日 ロックバンド「toe(トー)」が発起したライブハウス支援プロジェクト「MUSIC UNITES AGAINST COVID-19」がスタートするなど、支援活動は広がる