新型コロナウイルスの感染拡大で存続の危機に立たされた全国のミニシアターの支援を目的に、3億円超を集めたクラウドファンディング「ミニシアター・エイド基金」運営事務局は17日、参加団体のひとつアップリンクと浅井隆代表(65)が、元従業員からハラスメントを受けたとして16日に損害賠償請求訴訟を提起されたことを受けて、対応策を発表した。

事務局は、クラウドファンディングがコロナ禍という未曽有の災害に対する緊急支援の意味合いが強いものとした上で、各劇場と交わした同意事項に沿って、アップリンクにも支援金の分配を履行すると発表した。5月末に一部の支払いは済んでおり、6月下旬に残額を支払う予定だという。

ミニシアター・エイド基金運営事務局は「パワハラ自体は否定されざる事実である、と私どもは認識しております。ハラスメントはいかなる理由があっても許容されるものではありません」とアップリンクを批判。その上で「少しでも多くのミニシアターに支援が行き渡るよう、審査の基準をできるだけ簡素にしました。各映画館、経営者それぞれの性質や人格については不問としております」と説明した。さらに「なぜなら、こういった支援策はいわば災害時の生存をかけた『緊急避難所』であって、避難所である以上、入り口での選別は原則的に行うべきではなく、その方針は堅持すべきと考えています」と続けた。

そして「ミニシアターへの支援を広く世間に対し呼びかけ続けた今だからこそ、私たち映画業界に生きる人間は自分ごととして重く受け止めなくてはなりません。ことはアップリンク、ミニシアターだけの問題だけではなく、映画業界全般の信頼と労働意識が今問われているのだと思います」と、アップリンクのパワハラ問題を受けて、映画業界が、業界全体における労働の問題として考えなければいけないことを強調した。

アップリンクのパワハラ問題は、元従業員5人が16日、東京地裁に浅井氏と同社に対して損害賠償などを請求する訴訟を起こしたことで明るみに出た。元従業員たちは同日、都内で開いた会見で浅井氏から

<1>「精神疾患者を雇った俺がおかしかった」など、人格否定的な発言を日常的に言われた

<2>利用客や自社、他社の従業員の前での叱責(しっせき)

<3>浅井氏が落としたゴミや飲食物を、同氏が拾うことが出来るにもかかわらず、従業員に拾わせる

<4>サービス残業を当然視した言動

<5>労働環境の改善を申し出ると「議論する余地はない。会社に残るか去るか」などと退職を迫られた

<6>正当な理由がないにも関わらず正社員から有機雇用契約への変更を宣告され「条件をのめないなら、辞めてもらうしかない」と退職に追い込まれた

などのパワハラがあったと主張。さらに、浅井氏の暴言が日常的であるため、他の社員が同氏に逆らうことが出来ないような労働環境であると主張した。

浅井氏は同日、同社の公式サイトにコメントを発表し「元従業員の方々から訴訟を提起されたことに関して、真摯(しんし)に受け止めております。不適切な言動があったことを深く反省し、謝罪致します。本件の解決に向けて、誠意をもって対応をして参ります。社としてもハラスメントの再発防止に努めていく所存です」と謝罪した。