新型コロナウイルスの感染拡大を受けて4月17日からの公開が延期されていた、山崎賢人(25)と松岡茉優(25)の主演映画「劇場」(行定勲監督)が、7月17日に全国の映画館で公開するのと同時に、Amazonプライムビデオで全世界独占配信されることが25日、同社から発表された。邦画の実写映画が、劇場公開と同時に定額制動画サービス上で配信されるのは、日本におけるAmazonプライムビデオでは史上初で、日本映画界においても異例の試みとなる。

行定勲監督(51)は「当初より規模は縮小されますが(東京・渋谷の)ユーロスペースをはじめ全国20館のミニシアターを中心に公開します。それと同日に、Amazonプライムビデオで全世界への配信が開始されます」とコメントした。

「劇場」は又吉直樹の同名小説の映画化作品で、又吉が所属する吉本興業が製作幹事となり、昨年7月に撮影が行われた。その後、松竹の配給が決まり全国公開が予定されていた。ところが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響と政府の「新型コロナウイルス対策基本方針」を受けて、公開6日前の4月11日に公開延期が発表された。

行定監督は「本作は公開直前に緊急事態宣言が出され延期を余儀なくされました。その後、延期を決めたものの思い通りの再公開の状況が作れないという問題に直面していたところに、Amazonから声をかけて頂きました」と経緯を説明した。

映画業界の関係者によると、予定通り公開されていれば公開規模はシネコンも含め300館規模だったという。公開規模の大きさから新たな公開日は来年にずれ込むとの見通しも業界内で出ていた。

今回、Amazonプライムビデオによる全世界独占配信と同日に劇場公開するにあたり、吉本興業が配給も担当することで、公開日は3週間後の7月17日に決定した。その一方で、公開する劇場数は15分の1の20館、しかも小規模な単館系の映画館での公開が中心と、公開規模は大幅に縮小された。

ただ、行定監督にとって、劇場公開と同日の配信という日本映画界では異例の試みは、コロナ禍という異常事態の中で作品を世に送り出すために、考え得る最善の方策だったようだ。同監督は公開延期が決まった4月11日にツイッターで「私はこの映画に特別な思いがあります。だから、心待ちにしてくださる方たちにいち早く届ける手段も考えましたが、やはり私は映画館のスクリーンで見て欲しいと思いました」とつづっていた。Amazonプライムビデオでの世界配信が決まり「しかも公開と配信を同時にという私の希望をかなえる形で。これはコロナ禍において私の作った映画がより観客に届くことを最優先させた結果です」と、公開延期が決まった当初から劇場公開と同日の配信を視野に入れていたことを示唆した。

その上で、同監督は「ぜひ、渾身(こんしん)の思いで作った映画『劇場』を映画館で、そしてご自宅で、皆様に見ていただきたいです。私たちスタッフ、キャスト一同の映画への思いが詰まった作品です。観客の皆様の心に響くことを信じております」と呼び掛けた。

行定監督は、コロナ禍で公開が延期された、もう1本の新作映画「窮鼠はチーズの夢を見る」の公開が9月11日に決まったばかり。ここ10年で長編映画だけで10本を製作、公開と業界でも引っ張りだこの人気で、国内外でも知名度が高い行定監督が異例の試みに踏み切ったことは、日本の映画界に大きな影響を与えそうだ。

◆「劇場」 中学時代の友人と立ち上げた劇団「おろか」で脚本家と演出家を務めるものの、前衛的すぎる作風が酷評され、悩む永田(山崎)と、女優の夢を描く学生沙希(松岡)が街角で出会い、同居を始める。演劇に没頭していくあまり、世界の中心に自分がいるように周りが見えなくなっていく永田と、永田に自らの夢を重ねて支えようとする沙希の姿、心情を、痛みを感じさせるまでに描いた作風が、映画メディアや専門家筋で評判を呼び、行定監督の近年における最高傑作との呼び声が高い。