新型コロナウイルスの感染拡大を受け、戦後初の東西長期休止中だった宝塚歌劇が17日、約4カ月ぶりに兵庫・宝塚大劇場の花組公演で再開した。花組新トップ柚香光(ゆずか・れい)の本拠お披露目「はいからさんが通る」が開幕し、宝塚では130日ぶりの上演。半数以下の収容だった客席では感涙する者もおり、柚香もあいさつで感極まった様子。涙の再開を原作の大和和紀氏も見守った。

3月9日の星組千秋楽以来130日ぶり。宝塚歌劇としても、同22日東京宝塚劇場の雪組千秋楽以来117日ぶりの上演が、花組新トップ柚香の本拠地お披露目となった。

4カ月遅れの開幕。初めてトップの大羽根を背負い、大階段を下りた柚香は、組長高翔みず希のあいさつ中、自分の出番と勘違いしてフライングしかける場面もあった。高翔から「頼もしいトップスターです」と紹介され、初日終演後のあいさつに立った。

「(休止中は)宝塚を愛しているということ」を再確認したと言い、この日冒頭で客席から起こった拍手に「どれだけうれしかったか。マスクでお顔が見えなくても、どれだけの勇気とパワーをいただいたか、感謝の気持ちがやみません」と声を震わせ話した。

感涙の危機にも耐え、再開に備え一丸となったファン、スタッフに感謝。最大半数以下の1274席と、立ち見も最大で20人だったが「皆様どうか1週間後も2週間後も笑顔でいらしてください」と呼びかけた。

公演終了の音楽が鳴る中も拍手が鳴りやまず、柚香は再び舞台袖から登場。「あっ」と涙をこらえるしぐさをしつつ「愛に、幸せにあふれた空間は当たり前ではない。心に強く実感いたしました」。ファンと触れ合う機会もなかなかなく、今作劇中歌の歌詞を引き合いに「『たとえ遠く離れても心はすぐそばに』。この思いを、皆様にお届けしたい」と熱い思いに返礼した。

前日16日に大劇場で行われた通し稽古には、雪組トップ望海風斗ら生徒の姿も。劇団も一体となって迎えた再開の日だった。

前日の稽古後には、相手娘役の華優希とともに柚香が取材に応じ「私たちの公演が、どのように日々を重ねていけるか。宝塚だけではなく、エンタメ業界に影響してくると思う」との責務も感じていた。

自粛期間中は、買い物以外はほぼ外出せず、自宅で自主レッスンに励み、6月30日に本格稽古を始めても、普段は使わない大劇場や、劇場ロビーで歌稽古をするなど、楽屋も稽古場も密への配慮を重ねた。フィナーレは一部の演出を変え、エンディングでは70人以上いる組員を60人以下まで絞った。トップの大羽根、その重みには「羽根の華やかさに、自分が押しつぶされないような芯をもって背負いたい」と覚悟も口にしていた。【村上久美子】

○…1294人分のチケットは前売りで完売。宝塚市内の女性ファンは「拍手はいつもと変わらない(熱量)。(冒頭の)ダンスに感動し、前の席の方は泣いてらっしゃいました」と明かした。別の女性ファンは「いつもとは違う緊張感が」と吐露。大阪市内の男性(53)は、中断前最後の3月9日も観劇しており、同行の神戸市内の男性(53)ともども「レビュー、ショーが好き。男役の黒えんびはゾクゾク、ザワッとする」と話し、130日ぶりの“夢世界”を満喫していた。

<黄信号も最善策を 小川理事長再開を語る>

4カ月ぶり再開にあたり、小川友次理事長が対策を語った。6月上旬から固めたガイドラインには、各組組長をはじめ、自宅で自主稽古を続けた生徒から自発的に意見が出たという。「家族、生徒同士でも2名以上で食事をしない-などは、生徒からの申し出もあった」などと明かした。

密になりやすい稽古場、楽屋は予備も含めて開放。「劇場も含めファンを回して空気の活性化、吹きつけの消毒もウイルスの不活性化処置もした」と語った。

生徒には、3時間前の体温計測と報告の義務づけもし、ファンに向けては劇場入り口を1カ所に絞り検温機器を5台設置。オーケストラは録音にし、ロビーでの食事は禁止。飲み物、菓子類以外の販売はやめ、カウンターも廃し、トイレ行列で間隔を保てるよう待機マークを設けた。今作からライブ配信も始め、次作以降も予定。「全開とは言わなくても、黄色信号で渡っていく中で最善を尽くしていく」と話した。