世界3大映画祭の1つ、カンヌ映画祭(フランス)の公式ラインアップに選ばれた、河瀬直美監督(51)の「朝が来る」(10月23日公開)完成報告会見が6日、都内で行われた。

席上でフランス、スペイン、北欧など世界25カ国で公開が決定したと発表された。

劇中で夫婦を演じた主演の永作博美(49)と井浦新(46)は、俳優陣がカメラがない中でも、演じる役として住む家やロケ先で実際に生活するなど、登場人物が経験することを物語の順番通りに経験する河瀬監督独特の演出法“役積み”で驚いたエピソードを明かした。永作は「温泉に2人で泊まるシーンがある。その前のシーンが、すごく押して温泉に着くのが遅くなった」と井浦と温泉に行くことになったと振り返った。

その上で「その日は、いろいろあるので泊まらないことになっていたのに、行ったら『お風呂に入って下さい』とか、用意されている。カメラも回ってない、スタッフもいない中、おかみさんがやってきて『ご飯を食べてください』と…。時間がないのに2人で『ここも、やるんだ?』と」と井浦と驚いたと語った。

その上で「ここら辺りで、ワナを仕掛けられていると思った。撮影が押したのもワナ…泊まらせる気かと思った。次の日、朝から学校の行事があると言っているし、絶対に帰らなければならないのに…と思っていたら、遅い時間に解放された。そこまでやるか、河瀬組。(役積みは)急にやってくるのでスタッフを信じられなくなる」と笑った。

井浦は、「すごい変なモードに入って、味を全く覚えてない」と温泉で食べた食事の味が脳裏のどこにも残っていないと吐露。「実はカメラが隠されているんじゃないか? と。全てが特別な経験になっていく」と、撮影されているかもと思うあまり、落ち着いて食事が出来なかったことを明かし、苦笑した。

「朝が来る」は辻村深月氏の同名小説の映画化作品。無精子症で1度は子どもを持つことを諦めた栗原清和(井浦)と佐都子(永作)の夫婦が、特別養子縁組という制度を知り、14歳だった少女片倉ひかりが産むも、育てられなかった男の子を迎え入れて朝斗と名付ける。6年後、ひかりを名乗るも、面影がみじんもない女から「子どもを返してほしいんです。それが駄目ならお金をください」という電話がかかってきて、一家に危機が訪れるヒューマンミステリーだ。

河瀬監督は「人生には、なかったこと、なかったことにされたことがあり、よどみが生じることがあるかも知れない。新しい命が、どのような形であっても、この世界が美しく思えるように、この映画が小さなかけらであっても力になればと思っています。映画によって、ネガティブな感情をポジティブな感情に変えていくことは、作り手にとってこれ以上の喜びはないと思います」と感慨深げに語った。

この日は片倉ひかり役の蒔田彩珠(18)、浅見静恵役の浅田美代子(64)、朝斗役の佐藤令旺(7)も登壇した。