プロデューサーで監督の角川春樹氏(78)が、最後の監督作と公言する「みをつくし料理帖」が16日に公開された。70、80年代に「風雲児」と呼ばれ、麻薬密輸事件による約10年間のブランクもあった。このほど取材に応じた角川氏が語った作品に込めた思いなどを、ニッカンスポーツコムで4回にわたって配信します。第3回は「ユーミンとの知られざる友情」。

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角川春樹氏は、93年に麻薬取締法違反で逮捕され、その映画人生には約10年間のブランクがある。保釈期間中に撮影した唯一の作品が97年版「時をかける少女」で、この作品に主題歌を提供したのが松任谷由実(66)だった。81年の「ねらわれた学園」に名曲「守ってあげたい」を提供して以来、2人の交流が途切れることはなかった。

「ユーミンは常々『曲はその人との出会いが大事だから、その関係を超えることはできない』と言っている。それで言えば、彼女の『春よ来い』を初めて聞いたのが、千葉刑務所に拘留されていた時(94年)で、それこそ早く出たい、春よ来い、と祈るような気持ちだった当時の私にしっくりきた。だから、今回の作品でも、編集中は、仮で『春よ来い』を入れていたんです。彼女は『今回はその関係を超えるものを作ってみせるから』と今回の曲に取り組んでくれたんです」

映画「みをつくし料理帖」の主題歌「散りてなを」は、ユーミンがそんな思いで書き下ろし、夫の松任谷正隆氏(68)が編曲した。歌ったのは、彼女自身が「私の荒井由実時代にもっとも音域が近い」とイメージした手島葵(33)。角川氏がひそかに決めていた歌手その人でもあった。2人の思いがピタリと合わさった主題歌は劇中の人情の移ろいに寄り添う優しい曲に仕上がっている。

刑期を終えた04年に「角川春樹 復活の日」と題した集まりが親しい関係者だけで開かれた。

「役者や作家もたくさん来てくれたんだけど、もちろんユーミンにも声をかけた。ジョー山中が『人間の証明』のテーマを歌うことになっていて、彼女は『ジョーさんが歌うなら私は歌わない』と。内心『春よ来い』を歌ってくれるつもりだったんだろうけど、結局かなわなかったね。『壁の花は嫌だから、席はあなたの隣』とも言ってくれた。彼女は八王子の呉服店の娘だから、粋な和服を着て来た。受付スタッフは『社長(角川氏)を訪ねて銀座のチーママとおぼしき方がお見えになりました』と。着こなしが決まりすぎていて、ユーミンとは分からなかったんだね」

映画と音楽のヒットメーカー同士は、端からはうかがえないところで不思議なほどリンクしている。

「人情ものはこれまでの作品とは違うけど、これが最後だから自分のやりたいようにプライベート・フィルムのつもりで作ったんです。地味だとか、『食』を題材にすると当たらないとか、いろいろ周囲の本音は聞くけど、ユーミンは『私もそうだけど、ウケようと思って作ると外れる。居直って自分のやりたいようにやった曲ほど当たるから』と言ってくれた」【相原斎】