日本映画製作者連盟(映連)は29日、河瀬直美監督(51)の新作「朝が来る」を、第93回米アカデミー賞国際長編映画賞に出品する、日本代表に選出したと発表した。河瀬監督は「本作品が描く、どんなことがあっても必ず朝は来ると思える希望の光を、日本代表として栄えある米国アカデミー賞国際長編映画賞部門の枠へ届けられることを誇りに思います」とコメントを発表した。

「朝が来る」は、辻村深月氏の同名小説の映画化作品。無精子症で1度は子どもを持つことを諦めた栗原清和と佐都子の夫婦が、特別養子縁組という制度を知り、14歳の少女片倉ひかりが産んだものの、育てられなかった男の子を迎え入れて朝斗と名付けた。6年後、ひかりを名乗るも面影がみじんもない女から「子どもを返してほしいんです。それが駄目ならお金をください」という電話がかかってきたことで、一家に危機が訪れるヒューマンミステリー。永作博美(50)と井浦新(46)が栗原夫妻を、ひかりを蒔田彩珠(18)、特別養子縁組の制度の普及に努めるNPO法人代表の浅見静恵を、浅田美代子(64)が演じた。

河瀬監督は「撮影中、共に作りあげた俳優陣は、役を『生きる者』としてそこにあり、流す涙や心からのほほ笑みでうそのない『本当』を作品に刻みました」ともコメント。演じる役として住む家やロケ先で、撮影前から実際に生活するなど、登場人物が経験することを物語の順番通りに経験する機会を作り、要求もする。その独特の演出法“役積み”を経て演じた、俳優陣の取り組みを説明した。

また、河瀬監督は「映画を作るということは私にとってもうひとつの人生のようで、そこに降りそそぐ光や吹く風に勇気や希望を見いだします。子供のいない高齢の夫婦の元で両親を知らない私は養女として迎えられ、この生を慈しむことを知りました」と、自らが養女として育った境遇についても触れた。

「朝が来る」は、新型コロナウイルスの感染拡大で通常開催が見送られた世界3大映画祭の1つ、カンヌ映画祭(フランス)の公式ラインアップに選ばれている。さらに、アカデミー賞の前哨戦として知られる、ハリウッド外国人映画記者協会(HFPA)主催のゴールデングローブ賞のノミネートの対象作品にも入っている。その上で、アカデミー賞を主催する米国の映画芸術科学アカデミーから国際長編映画賞に日本映画1本を選考し出品する依頼を受けた映連から、日本代表に選出された。

河瀬監督は「運命的に出会った本作品『朝が来る』には私が見てきたこの世界の闇と光が存在します。コロナ禍にあって、皆さんの生活が脅かされ、心が疲弊するとき、本作品に出会っていただく時間は、少なからず『希望』を感じていただけるものとなりました。世界中の人々がその『希望』の光を持って、誰かに少しでも優しくなれる時間が訪れますように。明けない夜はない! 大切な誰かと一緒に全国の映画館へ、公開中の『朝が来る』に出会いに来ていただけると幸いです」と呼び掛けた。

授賞式は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で例年から2カ月延期となり、来年4月25日(日本時間同26日)に開催が予定されている。