宝塚歌劇団で最も歴史のある花組一筋で男役18年。ファンは瀬戸かずやを「花組の彼氏」「アニキ」と呼び、「花男」のひとつの典型を重ねる。その人気スターは、退団公演「アウグストゥス-尊厳ある者-」「Cool Beast !!」でも、芝居では“イケオジ(イケてるオヤジ)”として魅了し、ショーでは背で語り、みえをきり、自身の描く理想の「花男」の集大成を見せている。

瀬戸は、かつての花組恒例行事、バーベキュー大会で締めを担う「焼きそば兄さん」としても、下級生にその背を見せてきた。もともとは、専科へ移った後に退団した花組の先輩、華形ひかるが焼きそばを作って組子(組のメンバー)に振る舞っていた。華形の異動により、その任が瀬戸に回ってきたという。

瀬戸はもともと、実生活でも弟がおり、頼られる“兄貴分”肌だ。他人の面倒を見ているうちに、「あれ、自分のことやってないっていうタイプ」と、かつて笑顔で話していた。

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研13(入団13年目)にして宝塚バウホールに初主演を果たす。宝塚人生、決して、スター街道の中央だけを歩いてきたわけではないが、それでも「背中で語れる男役に」と掲げた下級生時代の志がぶれることはなかった。

5組それぞれに個性があるが、やはり劇団で最初に生まれた花組生には、男役も娘役にも、伝統を重んじる思いを強く感じる。組替えも珍しくない劇団にあって、生え抜きスターが、組の個性を、伝統を受け継いでいく。

舞台での立ち居振る舞い、稽古場でのたたずまいから、焼きそばまで、間違いなく瀬戸は、花組の核を担ってきた1人だった。

後輩に頼られても、自身のことは「どうしても1歩引いてしまうというか…そういう部分もあった」と振り返ったこともあった。

学生時代に飲食店のアルバイトも経験した、めずらしいタカラジェンヌ。社会性が高めゆえに、組織の中にあって、自分の任、いま自分に求められるものは何かが瞬時に分かる“大人”だったように思う。

退団公演でショーを演出する藤井大介氏は「実際の人柄は、バリバリやるんですけど、人間的に本当にすばらしい。僕からしたら、いい弟分で、退団は寂しい」という。

退団公演が宝塚大劇場で開幕してからは、退団する華優希らとともに臨むサヨナラショーの稽古も始まった。連日の公演後に続く稽古。藤井氏も「身も心も疲れているでしょうが、精神的な面もすばらしくて。つねに笑顔を絶やさないでいてくれる」と話す。

芝居演出の田渕大輔氏も、舞台上での“男っぷり”とは一変した「普段の柔らかい空気がいい」と語る。

トップにだけ許される大羽根。それに続く大きさの羽根は通常、2番手が背負う。時に、トップ以外は背負わないこともある羽根。組の核として、顔として、ファン、仲間、劇団スタッフに愛された「花のアニキ」は最後の公演で初めて、羽根を背負っている。【宝塚担当・村上久美子】

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