元SDN48で作家、ライターとして活躍する大木亜希子(31)がこのほど、日刊スポーツのインタビューに応じた。19年に出版し、林修(55)が絶賛するなど話題となった著書「アイドル、やめました AKB48のセカンドキャリア」(宝島社)の文庫版を今月4日に発売。AKB48グループだけでなく多数のアイドルが増え続ける中で、自らの経験を踏まえて語った。

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-出版に至った経緯は

大木 まず、2012年3月までSDN48で活動していたんですけど、自分の夢が定かでは無い状態で、アイドル卒業後、自分がどのように職業に就くのかも分かりませんでした。でも、当時は私ごときでもスタイリストさんに靴下1枚でも履かせてもらう環境でした。新幹線のチケットの取り方も分からない状態。このままアイドルとして売れていくことはないだろう、っていう漠然とした不安はありましたね。

-卒業後、バイトや地下アイドルでの活動を経て、ネットニュースサイトの会社に就職されます

大木 思い切って記者になってみたんですけど、なかなか会社で過ごした3年間は大変でした。会社員としてのスキルがまるでなかったので。そこで、私だけじゃなくて、これって元アイドル全員が課せられた十字架なんじゃないかと思ったんです。絶対にいつかこんな本が書きたい、という野望を持つようになりました。

-18年に退社後、フリーに

大木 すぐにこの本の話を、半ば乗り込む形で、宝島社さんに提案させていただきました。すぐに企画を通していただいて、やろうという話になって。

-制作期間は

大木 まず取材の前に、日常生活をいったん捨てて、100人以上の元アイドルを探偵ばりに調査して、エクセルにまとめました(笑い)。この子は海外留学、この子は連絡がつかない、とか。顔の広いシンディー(元AKB48、元SDN48の浦野一美さん)の力を借りたりして。やっぱり、自分が興味を持てる方をインタビューしたかったので、キャスティングには死ぬほど気合を入れましたね。

-本では、元SKE48の佐藤すみれさんや元NMB48河野早紀さんら8人のAKB48グループ出身者らが登場します

大木 アイドルって、外側から見えるイメージと、内側の人間が感じているもののギャップが激しくて。「元アイドル? 会社も入れるし、男も選び放題でしょ」って思われがちというか。実際には、自分は何も持っていなかったし、お金も無かったし、他の人と比べたら社会人経験も乏しくて、全てがコンプレックスでした。でも、8人の方々の話を聞いたら、もう皆さん「あの頃はあの頃、今は今」って切り替えられていて。格好いいなって思いましたね。

-アイドルグループ内での葛藤など、赤裸々な心境にも迫っています

大木 みんな傷つきながら成長しているんです。例えばラジオ局員になった河野さんは、現役時代、握手会で並んでいる人が少なかったそうなんです。隣の山本彩さんのレーンには何百人もいるのに。でも、今は持ち前のガッツと、営業力と、握手会で得たコミュニケーション能力がすごく役に立ってると聞きました。物事って、すぐに勝敗がつかないし、人生一発勝負じゃないし、最後にはゴールにたどり着けばいいんだ、って感じましたね。

-8人がそれぞれの分野で活躍したり、プライベートを充実させたりしています

大木 20代半ばまで他者から評価されていた子たちが、今度は自分のために生きてるというのが、まぶしくって(笑い)。めちゃくちゃ、いい経験をさせていただきましたね。「周りから見る姿と、実際の葛藤は違いすぎたよね。しんどくなかった?」って話して。理解し合えたこともありました。

-大木さん自身、12年3月のSDN48卒業(メンバー全員卒業)直後はどういった活動をされていたんですか

大木 22歳で卒業してしばらくは、地下アイドルとか、清掃員とかバイトをしていました。チョコボールのキョロちゃんの着ぐるみの中に、1日8時間ぐらい入っていました。双子の姉の奈津子と交代で、4時間ずつ交代で入っていたこともありますよ(笑い)。

-そこから記者になって、3年でいろいろ経験されて退社してフリーになって、書籍も出版されて文庫化…。スピード感がありますね

大木 常に、他の人ができていることを私は全くできていないから、他の人の3倍ぐらい努力しないと多分追いつけないと思っていました。アイドル時代は、全部マネジャーさんがやってくれたことですから。それを、会社員だった3年間で全部覚えるつもりでやっていました。「私、何もないな」と思っていたので。

-ストイックです

大木 でもポジティブにとらえると、アイドル時代に握手会やSNS、ブログで学んだことって、やっぱり生きているんですよ。私は正直、売れてないメンバーでした。握手会とか、ブログとか、人気が数値化されていた中で、1ミリも選抜メンバーに入れなかったんです。今思えばそんなことないんですけど、「人として終わってる」と思っていました。当時はそれが全てだと思っていましたから。

-大人数のグループは競争も激しいです

大木 アイドルのお仕事って、ステージに立って華やかに踊るのが2割で、8割は筋トレみたいな感じなんですよ。1日9時間リハーサルしたりして、寝る以外の時間は全部踊っていた期間もありました。

-だからこそ、8人の元アイドルからも本音を引き出せたのかもしれません

大木 最もデリケートなことを聞くわけですからね。私たちはアイドルというものをどう生きていたのか。人によっては、活躍できていなかったことをどう思っていたのか。失礼極まりないことを聞く。だから取材期間は、私も恋愛とか、他のことは一切考えずに、とにかくこの本のことに集中して、8人の方々に全力で向き合いました。

-「アイドル戦国時代」と言われて久しいですが、まだまだ多くのアイドルが存在します。今からアイドルになるという方もいます。もし声を掛けられるなら

大木 「売れるか売れないかは分からないけど、あなたの選んだ道は大丈夫」と伝えたいですね。私の経験から言うと、アイドルとして活躍しなくても第2の道が待っているし、第3、第4の道もが待っているから。保険がきかない仕事だけど、やりたいんだったらやったほうがいいと思う。それをやったことでしか得られないものが、大きすぎるから。だから、長い目で見てほしいですね。人生の通過点としてはおすすめです。アイドルで人生が終わるわけじゃないから。そこが全てだと思わないでほしいです。

-大木さんの第2の道、第3の道は

大木 来年あたりに大学に行こうと考えているんです。今はおかげさまでたくさんお仕事をいただいてますけど、どうなるかわからないですし、私自身も第3の道を模索中ですね。

-官能小説などの作家としても活躍中です

大木 アイドルだけじゃなくて、女性全体の言えなかったこととか、もやもやしていることとか。30代の女性の抱えてる葛藤とか。それに寄り添える小説やエッセーを書いていきたいです。まだまだ勉強不足ですけど、それが自分らしく生きられる道だと思っています。

【聞き手・横山慧】

 

◆大木亜希子(おおき・あきこ)1989年(平元)8月18日、千葉県生まれ。05年ドラマ「野ブタ。をプロデュース」で女優デビュー。10年から「亜希子」名義でSDN48の2期生として活動開始。「小説現代」で書き下ろした「風俗嬢A」など官能小説も執筆。双子の姉、奈津子は家電にも詳しい女優として活動中。156センチ。血液型O。