月組トップ娘役、美園さくらは13年に首席入団した。前任は、男役で入団し、娘役ながら宝塚バウホール公演で主演まで務めた愛希れいか。彼女からトップ娘役の座を引き継ぎ、月組トップ珠城りょうの2人目相手娘役に迎えられ、珠城と同時退団する。最後の公演「桜嵐記(おうらんき)」「Dream Chaser」は、6月21日に宝塚大劇場での公演を終え、東京宝塚劇場の開幕(7月10日)を待つ。8月15日の同千秋楽をもって、退団する。

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19年2月、トップ娘役就任後、初の本拠地作を前にインタビューしている。当時「常に身の引き締まる思いがする。人から見られている意識は常にあります」と話していた。

6年7カ月に及び、トップ娘役を務めた愛希からのバトンには「存在は大きく、愛希さんが作り上げ、愛希さんがいらっしゃるからこその月組-、そういった空気があった」と、素直に重圧も口にしていた。

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美園は聡明(そうめい)ゆえに、苦慮もあったようだ。父は大学教授で、母は声楽家。音楽に親しんで育ったが、同時に子供の頃から、勉学も優秀だった。科目で言えば「答えがはっきり出る」数学が好きで、答えが複数の場合もある文化系は好きでないと語った姿も印象的だった。

頭がいい-。美園に抱いた印象は、最後のインタビューまで変わらなかった。得意の数学検定で優秀な成績を収め、裁判の傍聴も好きだったという。少女時代から、自身が「納得」することを常としてきただけに、何が起こるかわからない“生もの”の舞台への向き合い方には、悩みも多かったろう。

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心情の機微を入れ込んだ歌唱力は、とくに高音の伸びが美しく、ダンスもダイナミック、芝居も繊細で、3拍子そろった安定感のあるトップ娘役に成長した。

そんな美園の個性を、今回、演出にあたった上田久美子氏は「対象捕獲能力が高すぎる」と表した。物事を突き詰め、とらえる力量は秀でている。

今作は、南北朝対立の最中、親族を殺された敵討ちを誓う娘役。美園は、今作の稽古期間中に行われたインタビューで「すっと対象物に投げかけるというより、憂いをもって、ゆっくり時が流れていく感覚を楽しむ」役作りを心がけているとも語った。抑えた演技も求められ、「最後にして、また新境地へ」とも感じているという。

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ショーではトップ娘役就任前の「エリザベート」以来のエトワールも務めている。

「私自身、すてきな上級生さんを拝見して、多くを感じ取ってきたので、私も最後の最後まで、ここであがいていく姿を後輩に見せていくことができたら-。私の最後まで仕事なのかなと思っています」

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