長身とノーブルな立ち姿でファンをとりこにする。包容力に色気、気品を携え、貴公子から大人の男まで、何を演じても“映え”る。男役芸へ磨きがかかる宙組トップ真風涼帆のポリシーは「明日の自分に恥じない“今”を生きる」だ。

本拠地作「シャーロック・ホームズ-The Game Is Afoot!-」「デリシュー!-甘美なる巴里-」(兵庫・宝塚大劇場公演は8月2日まで、東京宝塚劇場は8月21日~9月26日)でもまた、進化した姿を見せる。

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男役10年の世界で、3年目から4年目への過渡期に、新人公演に主演。新人学年(7年目以下)だった下級生時代から、主要キャストに抜てきされ、階段を駆け上がってきた。

入団後、配属された星組には、のちに「レジェンド」と呼ばれるトップとなる柚希礼音がいた。その柚希が、下級生時代の真風を見て「この子はトップになる。いや、なるように育てなければと直感した」と語ったことがある。それだけのオーラを放っていた。6年目で早くも外部劇場での主演作も担った。

ただ、多忙な中で、自分を見つめ直す時間が少なかったのも事実。駆け足で歩む最中、共演した故郷・熊本の大先輩轟悠の姿に、気を引き締め直したこともあった。

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男役として決して恵まれた体形ではないものの、ストイックに高い意識をもって努力をし続け、男役の「生きた教科書」となった元トップの専科スター。誰もがお手本にする男役の中の男役に、真風は自身を顧みた。「もっともっと、努力をしなければと」。芸事に対する姿勢を見つめなおすきっかけを得ていた。

ただ、上昇一途に見えた頃にも、追われる立場も経験している。3学年下の現星組トップ礼真琴の存在だ。宝塚音楽学校時代から首席を通し、歌、ダンス、芝居とすべてに新人離れした素質を有していた。

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後輩からの良い刺激に、「日々、前進」の思いをより強くしただろう。進化を重ね、宙組へ移った後に、トップの座に就いた。

2人目の相手娘役に迎えた潤花に「心にうそがないように」と伝えたように、自身もそうあろうと努める。今作、開幕前のインタビューで、敬愛し、尊敬する轟の退団について問うたとき、即座に素直な反応がかえってきた。

「もう! まず、ほんとに信じられないですし、とても寂しいです。もう! 轟さんがいらっしゃらない宝塚というものを私は知らない。ほんとに今は、実感がどうしても、わくようでわかない感覚はありますね。サプライズでした~って、なるんじゃないか? ぐらいの感覚です」

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衝撃の強さを半信半疑の思いで伝え、感情を「今はグルグルしております」と表現した。まさに「心にうそがない」返しだった。

この真っすぐさはある意味、若手時代から変わらない。6年目で「オーシャンズ11」の主要キャストに抜てきされ、新人公演でも主演が決まった際のインタビューで、大人の男のイメージを問うと「コーヒーを飲める人って、大人だな、渋いなって思う」。率直で、ほほ笑ましい返答だった。

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苦みも、渋みも乗り越え、たどり着いたトップの座。大先輩の退団発表を機に、100年以上続く伝統のバトンを後輩たちへ託し、継承していく責の重みをあらためて実感する。

「残った自分たちが宝塚という看板を背負って、責任をもって歩んでいかなきゃいけない」

【宝塚担当・村上久美子】