占術家の細木数子さんが8日、呼吸不全で亡くなった。83歳。その毒舌で00年代前半にはバラエティー番組を大いににぎわせたが、そうなる前の80年代半ばに、驚くべき人心操縦術を目の当たりにしたことがある。

不倫騒動で進退窮まっていたある女優さんをインタビューした現場だった。話はややこしくなるが、その女優さんは当時「運命を読む六星占術入門」が評判になっていた細木さんを頼り、細木さんが人づてに当時の私の上司に相談。落ち着いた環境での単独インタビューで「真意」を明かした方がいいだろうということになって、細木さん同席のもと、その女優さんの話を聞くことになったのである。

レストランの個室で円卓を囲んだ記憶がある。騒動の前は清純派で通っていた女優さんは緊張して見えた。写真撮影は別の場で、という約束だったので、ほぼノーメーク。撮影現場とは違ってメガネを掛けた化粧っ気の無い顔がハッとするほどきれいだった。細木さんの導きで生気を取り戻したのか、時折笑顔も見せた。

「あなた、やり直したかったら、全部正直にこの方に話さないとだめよ」と細木さん。それでも、肝心の部分になると、さすがに女優さんは口ごもる。が、その度に「だめよ。話しなさい」と、細木さんの叱咤(しった)が飛ぶ。結局、相手方の妻への具体的な慰謝料の額、そしてすでにその男性とは別れたことなど、克明な事実が女優さん自らの口から明かされることになった。

いつもなら、関係者からこそぎ落とすように集める「事実関係」が、驚くほどすんなりと当事者の口から語られる。芸能記者としては夢のような時間だった。終了後、細木さんは「すっきりしたでしょう」。女優さんも「はい」と笑った。私は何と言っていいか分からなかった。

確かにこの記事を出してから、女優さんへの追及は和らいだようには思う。

訃報を聞き、あの時の細木さんの有無を言わさない目と、時折のぞかせた意外なほど優しい表情を思い出す。