作家で女優、歌手の中江有里(47)が小説「万葉と沙羅」(文芸春秋)を出版した。17年から雑誌、新聞に連載したものを加筆、修正した。

通信制高校に1年遅れで入学した沙羅が、幼なじみだった本好きの青年・万葉と再会して、世界が広がっていく青春小説。アイドルとして通信制の都立高校に通い、30代半ばで通信の大学に通った実体験が生きている。

「本でつながる若い人の青春ストーリーを書いてみないかという話をいただいたのが、きっかけです。私は本を紹介したり、自分で本を書く仕事をしているので、若い方にも読めるような本の話を書きたいと思っていました。通信制の高校とか大学という自分の経験を、どこかに書きたいなとも思っていたんです。人間関係を築きにくい場所なんですけど、そういう世界の中で、どういう青春があるのかを書いてみました」。

作中で、万葉が沙羅に対して本を選ぶ基準として「目があった本」と言う。

「本には“顔”がありますよね。面白そうっていうのから、その本の持つ雰囲気みたいなものにひかれるということはありますよね」

この2年間は、世界はコロナ禍にまみれた。人と会うことが気軽にできなくなり、仕事もリモートですることが増えた。

「逆に、会うことの価値が高まったという感じもしているんですよね。通信で学んでいた時も時々は対面授業があって、1人でやってる時に分からなかったことが、これだったんだって感じることも多かった」

人間関係に悩み、進路に悩み、本に悩む若者、そして周りの大人たちを描く。「ささやかな人生の中で、はたから見れば些細(ささい)なんだけど、本人にとっては大事な将来の選択肢とかの悩み。そういう意味では、この小説には大きな出来事もない。風景として本があって、それに会話が乗っていくみたいなことを描いてみたいなと思いました」。

(続く)

◆中江有里(なかえ・ゆり)1973年(昭48)12月26日生まれ、大阪府出身。89年JR東海のCMでデビュー。90年のTBS系「なかよし」で女優デビュー。91年にはシングル「花をください」で歌手デビュー。92年の日本テレビ系「綺麗になりたい」で、連続ドラマ初主演。95年のNHK連続テレビ小説「走らんか!」ではヒロイン。06年小説「結婚写真」。13年に法大通信教育部文学部日本文学科を卒業。今年1月にアルバム「Port de voix」、9月にシングル「コントレール」「空に星があるように」を発売。9月発売のカマラ・ハリス米国副大統領の自伝的絵本「みんなスーパーヒーロー」(平凡社)で翻訳を手掛けた。来月26日には東京・渋谷のJZ Bratでライブ「Bon anniversaire!」を開く。