「第34回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞」が昨年12月28日に日刊スポーツ紙面とニッカンスポーツ・コムで発表されました。発表当日に掲載しなかった部分も加えて、受賞者インタビューでの言葉をあらためて掲載します。

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主演女優賞は「老後の資金がありません!」(前田哲監督)の天海祐希(54)が受賞した。

コメディー作品の主演が同賞を受賞するのは初めて。家計のピンチに立ち向かう主婦の馬力は「コメディエンヌの完成形」と高い評価を集めた。

「人を笑わせるのは難しいことなので、とても光栄です」。難しいジャンルを引き受けることにプレッシャーはなかったという。「『~できなかったらどうしよう』とは、あまり考えないタイプかも。私がトークで3分間笑わせるなら別ですが、監督が引きで見てくださっているし、心強い共演者の方々もいる。私は安心して取り組むだけでした」。

年金をめぐり、しゅうとめ(草笛光子)と一芝居打って役所をだまそうとするくだりは、劇場でも爆笑を呼んだ。男性受給者になりすますため、草笛が毒蝮三太夫に扮装(ふんそう)して登場する。

「メークを終えた草笛さんが出てこられた時、どうしよう、我慢できないと思って、『笑ってもいいですか』と目の前で笑わせていただきました。普通は『こんなになっちゃった!』とか笑いながら現場に出てくると思うんですけど、草笛さんはあの格好でスーンと出てくるわけです。中世の貴婦人みたいですてきでした」。市役所職員役でこのシーンにのみ登場し、爆笑をさらっていく三谷幸喜について聞くと「ずるいでしょう?」と、身を乗り出して訴えるように笑った。

しゅうとめの生前葬のシーンでは、宝塚歌劇団出身の天海と、SKD(松竹歌劇団)出身の草笛が越路吹雪の「ラストダンスは私に」を歌うという夢の共演もあった。草笛に「あなたに宝塚は無理よ」と言われて天海が面食らうやりとりは、大きな笑いを呼んだ。

「こんなベタなせりふ、おもしろいのかなと思っていたんですけど、劇場ではすごい笑いが起きていて、こんなことで笑っていただけるのかと」と喜ぶ。「歌も笑いも、お客さまに楽しんでいただけたのならうれしい。宝塚出身でよかったと思うことは山ほどありますが、今回の経験もそのひとつです」。

撮影はコロナ禍前の19年。感染拡大で1年の公開延期に見舞われたが、漠然とした閉塞(へいそく)感が長引く今、「笑いたい」という人々の願いに応える形になった。当事者の中高年世代ばかりか、孫との3世代観賞や若いカップル層などにも広がりもみせ、観客動員は100万人を突破した。

「うれしいですね。コロナにやられっぱなしじゃ腹が立つ。延期されたおかげで、逆に神懸かりのタイミングで公開できたと言いたい」と、見えない敵にメラメラと闘志を燃やす。「大きなスクリーンの前で、見ず知らずの人同士が笑い合い、共有できる映画の幸せをこの時期にお届けできたのなら、1年延期の意味はあったと」。

54歳のいま「めちゃめちゃ幸せ」と話す。「才能豊かな人がたくさんいる中で、こうしてお仕事をいただけて、皆さんに見てもらえて。天海ならこうするだろう、こうしてくれるだろうという期待に応えられる自分でありたい」。

いかにも生涯現役でありそうなこの人にその意気込みを聞くと「決めていない」という答えが返ってきた。「若いうちは大きな目標を掲げて自分を引っ張り上げていくのも大事ですが、この歳になると、目の前の仕事を最大限頑張らないと次はないという危機感を自分で持っていないと。「このまま続く」という甘い考えは持たないようにしています」。

50代になり、「すごくラクになった」という。「若いころはいろんな可能性があって、その都度選択を迫られるけれど、50代になると、できないことを切り捨てていける。例えば、今から子どもを生みたいとか思っても難しいでしょ。手元に必要なものだけ残っているから、まぁラクですよ」とカラッと笑う。「50代、60代になるとこんなにラクで楽しいという姿を、微力ながら見せていけたらと思います」。【梅田恵子】

◆天海祐希(あまみ・ゆうき)1967年(昭42)8月8日、東京都生まれ。宝塚歌劇団第73期生。93年、史上最短で男役トップ就任(月組)。95年退団。「女王の教室」(05年、日本テレビ)、「BOSS」(09年、フジテレビ)など主演ドラマ多数。14年から、テレビ朝日系「緊急取調室」も人気シリーズに。171センチ、血液型O。

◆「老後の資金がありません!」 節約好きの後藤篤子(天海)は夫章(松重豊)の給料とパートで稼いだお金をやりくりして老後の資金をためてきた。しかし親の葬式、娘まゆみ(新川優愛)の派手婚、しゅうと芳乃(草笛光子)の浪費で貯金0円が目前に迫る。