15歳で歌手デビューし、今年で50周年の節目を迎えた石川さゆり(64)。「津軽海峡・冬景色」「天城越え」など歌謡史に輝く名曲をお茶の間に届けて半世紀。人生を歌にささげ、常に向上心を忘れない歌謡界のトップランナーだ。

29日の紙面「日曜日のヒロイン」に掲載できなかったアナザーストーリー(一部重複)を全7回に分けてお届けする。【取材・構成=松本久】

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芸事対して常に前向きで、努力することを決して怠らない。

「コンプレックスこそ、大きな力なんですよね。自分が『あ、これ苦手だな』と思っていることこそ、克服したら力になるんです。私ね。九州の生まれなんですけど、鼻濁音が出来なかったんです。がぎぐげご。その練習を一生懸命にしたら、(言語学者の)金田一春彦さんが『石川さんの鼻濁音って本当に美しいですね』って言ってくださったことがあって。そうなんだ。苦手なことって逆に、武器に変わっていくチャンスでもあるんだって。何も気付かなければそれまでですけど、そういうことなんだって」。

話し方だけでなく、歌うことにもコンプレックスがあった。

「もともとビブラートがありませんでした。演歌の歌い手として、あるまじきことでしょ。あーあーあーあーあーと、ピアノで音を取りながらビブラートを作っていったんです。だから、逆に言ったら、歌によってビブラートは外すこともできるんです。この歌はないほうがいいな、これはあったほうがいいなって自分で判断しています。ファルセットもなかったんです。16、17歳くらいの時に(作曲家の)市川昭介先生のところで(レッスンを受けて)ファルセットを取得しました」。(続く)

◆石川(いしかわ)さゆり 本名石川絹代。1958年(昭33)1月30日、熊本県生まれ。73年に「かくれんぼ」でアイドル歌手としてデビュー。77年に「津軽海峡・冬景色」が大ヒットし、同年に同曲で紅白歌合戦に初出場。昨年までに紅組最多の44回出場中。代表曲に「能登半島」「天城越え」「風の盆恋歌」など。19年に紫綬褒章を受章。血液型A。