札幌市出身のシンガー・ソングライター半崎美子(41)が17日、3枚目のアルバム「うた弁3」を発売した。コロナ禍を経て制作された今作のテーマは「立ち止まる」。メジャーデビューから5年、がむしゃらに走り続けてきた半崎にとっての「立ち止まる」とは何か。3年ぶりのアルバムに託した思いを語った。

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半崎の代名詞となった「うた弁」第3弾には、シリーズ最多の13曲が収録されている。その全曲がコロナ禍が始まった2年前から今年にかけて制作された。17年4月のデビューから、走り続けることだけがすべてだった。5周年を記念したアルバムのテーマには、あえて「立ち止まる」を選んだ。

半崎 インディーズ時代からずっと「止まったらいけない」という感覚でいた。自分が止まったら何も動かない。今日よりも明日、成長してないといけないとか、自分に課していて。やっと「立ち止まる」ということを肯定できた。立ち止まることで見えてくる景色とか、聞こえてくる声とか。その地点の深さを知ることの大事さを感じています。

リード曲「足並み」は“立ち止まっている人”へ向けた曲だ。それは励ましでも背中を押すメッセージでもない。半崎らしい、いたわりがつづられている。

半崎 前に進みたくても進めない人、そこから1歩も踏み出せない人。私はそういう人たちに「1歩、前へ進もう」とは言えない。今立ち止まっている人と、私はともにありたい、はぐれないように歌いたい。これがこのアルバムの軸。本当の悲しみの中にいる時は前に進む必要はない。世間のペース、ほかの人の足並みにそろえることはない。自分の足取りを大事にしようと。

今年は大物アーティストとの仕事で大きなものを得た。森山直太朗(46)からデビュー5周年シングル「蜉蝣のうた」を提供され、「直太朗さんは歌詞がなくても、歌声だけで意味を感じさせる。私もその領域にいきたい」と感じた。そしてNHK「玉置浩二ショー」に出演し、同郷の大先輩、玉置浩二(63)と半崎の楽曲「母へ」を歌った。

半崎 玉置さんと歌うことで、自分の曲が違う意味をもって聞こえた。そして「これこそが歌だ。泣いた」と言っていただいて。私の曲はとくに派手さがあるわけでもなく、身近なものを歌っているだけ。玉置さんのひと言は、自分が紡いできた音楽を肯定し、「これでいいんだ」と今後の音楽人生のお守りになった。

デビューから走り続け経験を積み、そして立ち止まった。コロナで止まった世の中は、すでに動き出している。半崎はこの先をどう歩み出すのか。

半崎 私のスタンスは変わらない。コロナ禍で誰もが立ち止まっている時は見えなかったけど、みんなが一斉に動き始めた時、そこに付いていけず置き去りになる人が見えてくる。その時のほうが大事。立ち止まっている人に何も言えることはない。でも、はぐれないという気持ちは伝えられる。その時こそ、歌を届ける意味がある。【黒河祐介】

◆半崎美子(はんざき・よしこ)1980年(昭55)12月13日、札幌市出身。札幌市内の大学在学中に音楽に目覚め、19歳で中退し上京。17年間の下積みを経て、17年4月にミニアルバム「うた弁」でメジャーデビュー。同年11月、日本有線大賞新人賞を受賞。19年には天童よしみに「大阪恋時雨」を楽曲提供し話題に。今年は4月に開校した北海道初の公立夜間中学・札幌星友館の校歌を手がけた。

◆うた弁3 全13曲を収録した3枚目のアルバム。今作のために作った「足並み」など新曲6曲のほか、森山直太朗書き下ろしの「蜉蝣のうた」、05年に他界した歌手本田美奈子.さんの散文をもとに書いた「地球へ」などのシングル曲や、NHKラジオ深夜便で反響を呼んだ「心の活路」も収録。税込み3000円。