東映は30日、10月1日に東京撮影所に新しくバーチャルプロダクション部を発足し、先端技術による新しい映像制作技術である、バーチャルプロダクションの実証試験に取り組むと発表した。東京撮影所No.11ステージを、横30メートル×縦5メートルのLEDウォールを設置した、現時点で日本最大のLEDスタジオとしてリニューアルし、23年1月から運用開始する予定。配給会社が自前でLEDスタジオを保有・運用するのは国内初となり、蓄積した新技術自体を活用した企画開発や、今後も日進月歩する映像表現の未来をリードする体制作りが可能となる。

バーチャルプロダクションとは、仮想空間の背景と実物の被写体(俳優や小道具)を同時に撮影し、合成する、米ハリウッドでも使用される最先端の撮影手法。多くは背景にLEDパネルを設置し、映像やCGIを映し出して、その前に俳優が立って演技するのを撮る。米国をはじめインド、韓国などでは多くのLEDステージが新しく設立され「マンダロリアン」「ザ・バットマン」など作品数も増えている。

一方、国内ではCMやMVなどで利用されているが、映画やドラマに使用される例はまだ少ない状況だ。21年10月公開のオムニバス映画「DIVOC-12」(ディボック-トゥエルブ)で、上田慎一郎監督(38)が松本穂香(25)を主演に製作した短編映画「ユメミの半生」で使用している。

バーチャルプロダクションのメリットとしては

<1>従来のグリーンバックを使用したクロマキー合成は、ポストプロダクション工程(撮影後の工程)において多大な加工処理を要したが、LEDウォールを使用したバーチャルプロダクション撮影は、合成工程が不要であり、ポストプロダクション工程の大幅な圧縮が可能。

<2>ロケ地や移動時間、天候に左右されないため、移動等にかかる経費を削減でき、また俳優や監督等スタッフのスケジュールも確保しやすくなる。

<3>LEDウォールが照明の代わりを果たすため、環境光を自然に作ることが可能となり、照明セッティングの時間が短縮できる。

<4>従来のグリーンバックを使用したクロマキー合成と異なり、LEDウォールに映像が映し出されるため、俳優に対し、演技に没入しやすいより良い芝居環境を提供できる。

<5>LEDウォールに映す背景用に制作したデジタルアセットは、次回以降の撮影において活用することができ、またスタジオに現物セットを建て込み、撤去する時間が不要なためスタジオの稼働率を向上。また廃材等も発生せず、環境、社会、企業統治を考慮したESG経営につながる。

東映は、今後5年間で約20億円を投資し、制作する映像作品の制作工程でLEDスタジオを利用していく。これにより、先端技術であるバーチャルプロダクションを含む、映像全般のテクニカルフォローができる、日本随一のテクニカルチームの育成を行う。さらに、背景用のデジタルアセットの制作ノウハウやデジタルアセットの蓄積、当社の制作する映像コンテンツの高品質化なども図る。