20年に米アカデミー賞で、非英語映画で史上初の作品賞、監督賞、脚本賞、国際(長編)映画賞の4冠を獲得した、韓国のポン・ジュノ監督(53)の「パラサイト 半地下の家族」が、日本で舞台化されることが7日、分かった。

台本・演出を、09年に「焼肉ドラゴン」で鶴屋南北戯曲賞と芸術選奨文部科学大臣賞などを受賞した脚本・演出家の鄭義信氏(65)が務める。東京公演は、23年6月5日からTHEATER MILANO-Zaで、大阪公演は同7月7日から新歌舞伎座で開演する。

舞台版「パラサイト」は韓国・ソウルから、90年代の関西の、堤防の下にあるトタン屋根の集落に舞台を移す。映画版では、韓国の俳優ソン・ガンホ(55)が演じた事業に失敗し、仕事もないキム・ギテクとその家族を描く。一方、舞台版は、家内手工業の靴作りで生計を立てて暮らす、金田文平とその家族を描く。自らとは対照的な、高台にある豪邸に住む家族に、寄生していく物語は踏襲する。鄭氏は「全世界で爆発的ヒットとなった映画の舞台化ということで、緊張と不安と興奮を覚えています。思い切って、舞台をソウルの下町から日本の関西の下町に置き換えることにしました。原作を損なうことなく、いかにリアルな物語として、日本の観客の皆様にごらんいただけるか…そして、新たな舞台版『パラサイト』をつくりあげることができるのか」とコメントした。

「パラサイト」の舞台化は、ポン・ジュノ、鄭両氏と親交が深い、映画の企画、製作、配給を行うマンシーズエンターテインメント代表で、日大芸術学部映画学科講師の李鳳宇プロデューサーが企画。韓国国内では、21年5月に李氏が「パラサイト」に出資、配給した韓国のメディア企業CJエンターテインメントと版権契約を結んだことが報じられていた。同氏は、鄭氏が脚本を担当し、日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞した、崔洋一監督の93年の映画「月はどっちに出ている」を製作したシネカノンを率い、99年の「シュリ」や「パラサイト」に主演したソン・ガンホが出演した00年の「JSA」などの韓国映画を日本に配給した実績がある。

日本での舞台版ならではの、衝撃のラストも用意されているという。出演者は今後、発表するが、鄭氏は「これ以上はないだろうという素晴らしいキャストを迎え、スタッフ一同、意気込んでおります。どうぞご期待ください」とコメントした。

◆鄭義信(ちょん・うぃしん)1957年(昭32)7月11日、兵庫県姫路市生まれ。同志社大文学部中退後、横浜放送映画専門学校(現日本映画大)美術科で映画を学ぶ。松竹の装飾・美術助手を経て劇団「黒テント」に参加し、86年に最初の戯曲「愛しのメディア」を書く。94年に「ザ・寺山」で岸田國士戯曲賞。98年の映画「愛を乞うひと」で、日本アカデミー賞最優秀脚本賞、キネマ旬報ベスト・テン脚本賞、第1回菊島隆三賞、アジア太平洋映画祭最優秀脚本賞など数々の賞を受賞。「焼肉ドラゴン」では朝日舞台芸術賞グランプリ、読売演劇大賞・最優秀作品賞、韓国演劇評論家協会の選ぶ今年の演劇ベスト3、韓国演劇協会が選ぶ今年の演劇ベスト7など演劇賞を総なめ。14年には紫綬褒章受章。近年の主な作品に「すべては四月のために」(17年、作・演出)、「泣くロミオと怒るジュリエット」(20年、作・演出)「てなもんや三文オペラ」(22年作・演出)などがある。また、22年に自身の劇団「ヒトハダ」を立ち上げ旗揚げ公演「僕は歌う、青空とコーラと君のために」(作・演出)を上演。

◆「パラサイト 半地下の家族」 事業に失敗し、仕事もないキム・ギテク(ソン・ガンホ)は、妻チュンスク(チャン・ヘジン)息子ギウ(チェ・ウシク)娘ギジョン(パク・ソダム)と、しがない内職で日々をつないでいた。住んでいる半地下住宅は、窓を開ければ路上で散布される消毒剤が入り、電波もWi-Fiも弱く、水圧が低いからトイレが家の一番高い位置にあるなど暮らしにくく、家族全員、ただただ普通の暮らしがしたかった。ある日、大学受験に落ち続けるギウは、エリート大学生の友人から留学中の代打を頼まれる“受験のプロ”として向かった先は、IT企業社長パク・ドンイク一家が暮らす高台の大豪邸だった。パク一家の心をつかんだギウは、妹のギジョンを家庭教師として紹介し、ギジョンも、ある仕掛けをしていく。

◆「パラサイト」 金田文平の一家は、川の水位より低く一日中、陽がささず地上にありながら地下のような土地で暮らしている。一方、対照的な高台にある豪邸では、永井慎太郎が妻の千代子、娘の繭子、引きこもりの息子健太郎、ベテラン家政婦の安田玉子とともに暮らしていた。文平の息子の順平は、妹の美妃が偽造した大学の在籍証明を利用して繭子の家庭教師としてアルバイトを始める。美妃も健太郎のアートセラピーの教師として、慎太郎の運転手や玉子がクビになるように仕向け、その後釜に、文平と妻の福子が…と、金田家が永井家に寄生していく。