歌手橋幸夫(本名・橋幸男、79)が12日に、都内で記者会見し、「二代目 橋幸夫」のオーディションを2月18日に都内で行うことを発表した。80歳の誕生日である5月3日に歌手活動を引退する橋の、数々の名曲を歌い継ぐ歌手を選ぶオーディションである。

橋の所属する夢グループ公式ホームページで、募集要項が発表されている。それによると、選考方法は橋の作品の歌唱。18歳以上ならプロ・アマ、性別を問わない。参加は無料。さらなる詳細は応募した方に伝えられるという。

最低でも1人、最多で3人の「二代目 橋幸夫」が選ばれる。5月1日に東京・浅草公会堂で行われる橋の歌手生活最後のコンサートで、お披露目される。「二代目 橋幸夫」として募集するが、デビューに際しての芸名は「橋幸夫」の名前をそのまま継ぐのではなく、「橋幸雄」「橋幸生」のように「夫」と部分の字は変えるという。本名の「橋幸男」も除外される。選ばれた人は夢グループの社員となり、月給制で働きながら歌手活動を行う。

歌舞伎の十三代目市川團十郎や、落語の五代目古今亭志ん生のように、古典芸能では「何代目」などとして名跡が継承される。民謡も二代目福田岩月(歌手福田こうへいの父)や、三代目松本晁章(歌手杜このみの師匠)など継承されている。このほか、能狂言(何代目ではなく何世と表現)、舞踊なども名跡の継承がある。明治期以降に形となった演歌歌謡曲には、古典芸能のような伝統的な名跡の継承はない。

60年代に「東京のバスガール」が大ヒットしたコロムビア・ローズが引退。オーディションで「二代目コロムビア・ローズ」が誕生したことがあるが、前述のような名跡の継承とは言えない。

グループなどでは、ボーカルを何代目ということもある。「別れの朝」「ジョニィへの伝言」「五番街のマリー」などのヒット曲を持つバンド、ペドロ&カプリシャスでは、これまで初代の前野燿子さんから6人の女性ボーカルが歌った。高橋真梨子(当時は高橋まり)は二代目のボーカルだった。

ダンス&ボーカルグループの「三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE」は、まさに「三代目」である。91年にZOOのメンバーだったHIROが、ZOOと並行する形で「Japanese Soul Brothers」を結成。99年に「J Soul Brothers」と改名。01年に「EXILE」となった。07年にHIROプロデュースで新たなメンバーで「J Soul Brothers」が結成され、こちらも09年に「EXILE」に加入した。そして10年に新メンバーで結成されたのが「三代目 J Soul Brothers」(13年から「三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE」)である。

「二代目 橋幸夫」の誕生で、「潮来笠」「霧氷」「子連れ狼」など数々の名曲が忘れ去られずに、歌い継がれることは、歌謡界にとって意義のあることだ。今後、演歌歌謡曲の世界でも名前の継承が増える、かもしれない。【笹森文彦】