今日27日のNHK報道番組「クローズアップ現代」(月~水曜午前7時30分)で、「“命の法律”が守られない 岐路に立ついじめ対策」を放送する。28日に施行から10年を迎える「いじめ防止対策推進法」にフォーカスした特集で、同法を取り巻く課題、現状、自治体の新たな取り組みなどを取材し伝えている。制作を担当した社会番組部の植松由登チーフ・プロデューサー(以下CP、43)、ソウル支局の長野圭吾CP(48)、社会番組部の堤早紀ディレクター(以下D、32)、政経・国際番組部の栁沼玲花D(31)がインタビューに応じた。
「いじめ防止対策推進法」は、10年に滋賀・大津市の男子中学生がいじめを苦に自殺したことをきっかけに、13年に成立、施行された。子供の命を守るために生まれた法律だが、今もいじめによる自殺は後を絶たず、植松CPは「画期的とされた法律ができたにもかかわらず、悲惨ないじめ自殺が繰り返されているのはなぜなのか。この思いを取材の起点として大事にしてきました」と話す。同法では心身の苦痛を感じるものを全ていじめと定義づける一方、教育現場は解釈の広さに苦慮し「対応する余裕が学校側にない背景もあって、法律通りにはできない。学校の現実と法律が求めていることの間に、大きな溝があることが見えてきました」。
21年に北海道・旭川市の女子中学生がいじめを受けた後に亡くなった事件など「クロ現」で個別のいじめ事案を取り上げたことはあるが、法律にスポットを当てた特集はこれまでにないという。いじめにより自殺した埼玉・川口市の男子中学生の遺族や代理人弁護士を取材し、大津の事件も担当してきた堤Dは、かねて同法をテーマにした企画を秘めており、今回の放送に至るまでを「5年近く」と明かす。長く取材を続ける中で「学校現場の意識は着実に高まっている」と変化を感じつつ、「学校全体や管理職、担任の意識の問題、温度や格差は学校ごとにある。その質をどうならして、ボトムアップしていくか」と課題も見据える。
番組では、いじめの証拠集めや事実認定をスクールロイヤーが担う沖縄県の中学校の取り組みや、いじめを申告後の調査や審議方法をルール化する韓国の事例を紹介する。韓国での取材を担当した長野CPは「韓国では、教員は勉強を教えたり日々の生活指導をしたりするのが本質で、学校暴力(=いじめ)に対応するのは教員の本来業務ではないと切り離している」と説明。「自分のクラスで起きたいじめは担任が最大限責任を取るのではなく、別にいる、いじめ責任教師が調査を一手に引き受ける。教員の負担を法的に減らしているのが韓国」と日本との違いを語った。
取材者の熱量の高さもあり、内容は盛りだくさん。植松CPは「これが本当に(放送時間の)27分に収まるのか」と苦笑するが、編集では遺族が訴える言葉の強さを改めて感じるという。「つらい体験を語ってくださっている方の表情や声、その素材が訴えかける強さは大事。テレビを見る人がどう感じるか、いかに何も知らない状態で見た時にハッと引きつけられるかが一番大事」と話す。
前任地が札幌で、旭川市の事件を継続取材する栁沼Dは「報道が過熱していた事件だったので、不信感も強い中でご遺族と向き合っていかなければいけないのはすごく難しかった」と振り返りつつ、「取材者である前に、それぞれ人間だということを忘れずに向き合おうとしていました」。堤Dも「取材だけで関係を終わらせないことは大事にしています。誠意をどれだけ尽くせるかは、取材を受けてくださったことへの感謝でもあります」と、遺族との交流を絶やさずに続けているという。
企画の走り出しから放送まで足かけ5年。「いじめ防止対策推進法」施行から10年の節目に伝える意義を感じ、植松CPは「(法律が)そもそもどうなっているのか、まだ知られていないと思う。さまざまな負担を教員が抱える中で、どう教育現場を支えながら子供たちの命を守っていくか。最適解を探っていきたい」と話した。