お笑い芸人、鳥居みゆき(28)の初小説「夜にはずっと深い夜を」(幻冬舎)が、発売初日に重版が決まるなど処女作としては異例の売り上げを見せている。23作の短編と妄想日記からなっており、愛と狂気が表裏一体となった、ちょっと怖い物語が並んでいる。鳥居は「売れなくていい」と話しているが、編集者を驚かせたボキャブラリーの豊富さと表現力が、読者も驚かせている。22日には東京・新宿でイベントを行う。

 初版8000部は8月7日の発売初日で完売し、すぐに7000部の重版が決まった。同日配られた22日の発売記念イベントの整理券も、限定300人分がすぐになくなった。初小説では異例の動きで、鳥居は「これでやっと本が買えます」(?)と喜んでいる。

 子供のころから小説が好きだった。安部公房、夢野久作ら幻想、怪奇的で、不条理さも盛り込んだ小説を書いた作家が好きで、ドラマ「あしたの、喜多善男」の原案となった「自由死刑」などで知られる島田雅彦もお気に入りだ。

 昨年夏に本を書く企画が持ち上がり、半年ほどで書き上げた。ネタを作る時と同じように、部屋を暗くして手書きで書いた。パソコンを持っていないため、携帯メールに打ち込んで、編集者に送る、という方法だった。「女子高生みたいにずーっと携帯でメールしてましたぁ。どんだけメールしてんだよ、って思われてたかも」と話した。

 「長編は書いてるとぐちゃぐちゃになるんで」ということで、短編23作を書き上げた。主に女性が主人公で、過剰な愛やコンプレックス、欲望が描かれている。相手の行動1つ1つを愛だと勘違いしてしまう「華子の花言葉」、地獄に取りつかれた女を描いた「地獄の女」など、鳥居のネタのように、1度見たら忘れられない雰囲気がある。鳥居は「ポップなものを書いたつもりだったんですけど、文字化けしたのか、暗いものになりました」。

 黒、白、赤を基調にした装丁や紙にもアイデアを出した。編集者は「表現力も広いし、本になった時にどう見えるかが考えられている。イメージできているのがすごい」と語る。鳥居は「売れなくていいです。マルチタレント?

 ヘドロタレントですよ~」と笑うが、新たな才能の誕生だ。

 [2009年8月20日8時20分

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