糖尿病治療のため療養していた立川流家元の落語家立川談志(74)が13日、「もう最後かもしれない」と引退を示唆した。この日、東京・紀伊国屋ホールで行われた「立川流落語会」で昨年8月21日以来、約8カ月ぶりに高座復帰したが「もうダメ。引退した方がいいかな」と弱気発言が飛び出した。今後の落語会出演についても「どうなるか分からない。いいかげんだからね。こう言って引退しないかもしれないし」と揺れる心境を明かした。

 談志から衝撃発言が飛び出したのは高座後の会見だった。「もうダメですな。これが最後かもしれない。自信がないし、もう(落語を)やらない方に精神も肉体も近い状態にある」とまで言い切った。演じたのは「首提灯」。この日のためにけいこを重ね、若手の会に極秘出演し予行演習までしたが、出来が気に入らなかった。「元気な時だって『今日はひどい』と思う時もあったけど、今日は肉体的なものを含めてひどかった。落語をしゃべる体じゃないし、声も出にくくなっている。自然消滅するんじゃないかな。引退という気持ちはないが、引退しろと言うもう1人の自分もいる」と弱気な発言に終始した。

 この日の落語会は談志が書いた「談志

 最後の三部作」刊行記念で開催され、本購入者が抽選で来場。オークションで10万円を超えるプレミアもついた。高座前のトークコーナーでは弟子の談春、志らくを相手に談志は「良くなったというより、これまでだという感じになったり、うつ状態、落ち込んだりした。覚えたことも忘れていくし、顔を見てもすぐ思い出せない」とこぼす場面もあった。

 談志は昨年8月末、糖尿病による体調不良のため仕事をすべてキャンセルし年内休養を発表。12月には治療継続のため復帰延期を発表した。過去に食道がん、声門がんで療養したが、今回のような長期療養は初めて。以前は療養の身ながら不規則な食生活と睡眠時間で医師泣かせだったが、今年に入って医師の指示通りに規則正しい生活を送り、周囲も驚く回復ぶりをみせた。変身の裏には体調を戻して再び高座への思いが強く、談志も「初めて規則正しい生活を送った。おれらしくないと思って、安定した状態にいらついたりした」と明かした。

 それだけに不本意な思いが募った。「もっといけると思ったけどね。老兵は消えゆくのみ」と話した一方で、出演を予定している5月4日の志らく独演会については「どうなるか分からない。いいかげんだからね。こう言っても引退しないかもしれないし」と出演を否定しなかった。6月7日には立川流一門会出演も決まっており、しばらくは高座を重ねて、自らの出来を確かめていく。引退をかけた談志の今後の高座から目を離せなくなった。【林尚之】

 [2010年4月14日7時45分

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